(CMガイドブックからの抜粋を整理して、掲載致しました。詳細につきましては、CMガイドブックをご覧下さいますようお願い致します。)

 CMを考えるにあたり、発祥地アメリカ、そしていち早くアメリカの動きを取り入れたイ ギリスの歴史を知ることは、今後日本で起こる変化の方向性を予測する一つの材料となる。アメリカやイギリスでは、CMrの業務内容、提供方法などが時代背 景、技術革新などの影響により、日々変化している。CM方式がやっと根付き始めた日本の現状も併せて振り返り、日本のCMrがどのように変化あるいは進化 していくのか考えてみていただきたい。 

 

アメリカのCM 

 

■ 20世紀以前

 欧米ではマスタービルダー(日本では大工の棟梁)が伝統的に設計・施工の担い手であっ たが、15世紀以降の教会建築等において設計と施工の分離が起こった。アメリカでは1857年のAIAの設立により設計と施工の職能は完全に分離された。 この中でマスタービルダーが従来担ってきた設計と施工にかかわるマネジメント技術も、設計と施工の分離に併せて「緩やかに」分離されたと考えられる。

 

■ 1900年代から1950年代まで

 産業革命に伴う技術革新はアメリカにおいても製造業等にマネジメント技術の進歩をもたらし、Frederick Taylorによる生産性の向上やHenry Ganttによるバーチャートの開発の引き金となった。
  建設プロジェクトにおける設計者と施工者は、新たな技術(空調・昇降機・カーテンウォール・電話等)を有する製造者・専門工事業者とのコラボレーションに より、新たなマネジメント技術が要求された。工事契約における実費精算方式(Cost plus fee)・石油プラント建設におけるプロジェクト調達方式・マンハッタン計画におけるプランニング手法等の試みは建設プロジェクトにおけるマネジメント方 式の先駆的事例と考えられる。

 

■ 1950年代

 二度の世界大戦による軍事産業の需要は、アメリカのマネジメント技術に更なる進歩をも たらした。PERT(Program Evaluation and Review Technique)・CPM(Critical Path Method)等のスケジュール管理手法は、その後の建設産業にも影響を与えている。
 建設プロジェクトでは、設計施工分離の原則に基づく設計・入札・施工方式により、設計者と施工者がそれぞれのマネジメント技術を実践していた。

 

■ 1960年代

 NASAのアポロ計画を代表とする軍事・宇宙産業は、ネットワーク・ EV(Earned Value)・VE(Value Engineering)・WBS(Work Breakdown Structure)等の新た な管理手法を創造し、現在のプロジェクト・マネジメントの基礎が確立された。PMI(Project Management Institute)の設立もこの時期である。
 一般に、CM方式はこの時期に建設プロジェクトに導入されたとされている。産業の急速な発展に伴 い建設プロジェクトが大規模化・複雑化し、従来のプロジェクト関係者(発注者・設計者・施工者等)によるプロジェクト管理の範囲と能力に限界が生じ、更 に、労働者不足・建設費の高騰等によるインフレ懸念が深刻化した。この結果、建設プロジェクトの予算超過・品質低下・工程遅延等が、発注者のコスト管理・ 品質管理・スケジュール管理に対する不満を助長した。
 ファストトラック方式はこの発注者の不満に応えるプロジェクト調達方式として、工事発注単 位を細分化し、全体の設計終了以前に細分化単位で必要な許認可を取得して順次施工する方式である。設計と施工のプロセスがオーバラップすることにより、工 期の短縮・設計に対する施工情報のフィードバック等が可能になる。この方式ではCMrが請負者ではなく発注者の代理人として、委任的立場でコスト管理・品 質管理・スケジュール管理を行い、コストの透明性とスケジュールの最適化を実現した。
 ニューヨークのワールド・トレード・センター建設工事は、 ファストトラック方式を用いたピュアCMによる代表的なプロジェクトである。工事発注単位を100以上に分割して工期短縮と工事費低減の効果を実証した同 プロジェクトは、アメリカCMの歴史における重要なマイルストーンと位置づけられる。

 

■ 1970年代

 アメリカ連邦調達庁(General Service Administration)は1960年代後半からファストトラック方式を一部で実施したが、1970年代前半にガイドラインを作成してCM方式 (ピュアCM方式)を正式に導入している。その後、連邦政府機関のみならず各州政府機関が発注する公共建設プロジェクトでCM 方式が普及し、民間建設プロジェクトにも定着した。
 CM方式の普及によりCM職能が確立され、CM業務環境が整備されると共に、大学教育においてもCM専門課程が相次いで開設された。

 

■ 1980年代

 グローバル化・情報革新・顧客重視志向・企業組織変革等のビジネス環境の変化により、 軍事・宇宙産業で発展したマネジメント技術が、プロジェクト・マネジメントとして一般に幅広く受け入れられた。パーソナルコンピューターの普及とともにプ ロジェクト・マネジメント・ソフトウェアも普及した。PMIによりプロジェクト・マネジメント知識体系(PMBOK: Project Management Body of Knowledge)が発行され、資格制度(PMP: Project Management Professional)が創設された。
 ビジネス環境の多様化により、1970年代後半には一部にファストトラック方式の弊害も生まれた。細 分化発注によるプロジェクト運営はCMr の能力・資質が成否に大きく影響するため、プロジェクト終了時まで工事費が未確定、設計と施工の調整不充分による業務の手戻りと品質の低下、スケジュール 調整の不備による工程遅延等、発注者の不満も報告された。これらのコスト・品質・スケジュールに伴うリスクは結果的に発注者負担となり、紛争処理業務も増 大した。
 この発注者不満に対して、CMrが工事費の上限額(GMP: Guaranteed Maximum Price)を保証して発注者リスクの一部を負担するCM方式が導入された。一般的にCMアットリスク方式とされているが、契約上は実費精算方式 (Cost plus fee)に分類される。

 

■ 1990年代以降

 アメリカのプロジェクト調達方式は更に多様化している。責任一元化(Single  Responsibility)をキーワードとするデザインビルド方式が従来方式に代わるプロジェクト調達方式のひとつに位置づけられ、CM方式は新たな 発注者ニーズによる進化を続けている。
 ピュアCMは、単一の建設プロジェクトから同一の発注者による複数のプロジェクト群へ、また、大規模で複 雑な建設プロジェクトの発注者側へと業務対象を拡大している。これらの業務はプログラム・マネジメントと称される場合がある。CMアットリスクは、責任一 元化の観点で共通性をもつデザインビルドと共に、プロジェクト調達方式に対して多様化する発注者ニーズ(工事費上限保証によるコスト管理重視・設計と施工 を包括した責任一元化重視等)に適合することが期待されている。
 

 

イギリスのCM


 1980年代初めまで、イギリスにおける発注方式は設計・施工分離の一括発注方式が主流で、一般にJCT*標準契約書(B/Q 数量明細の有/無、概算数量式等)が用いられ、実施設計完了後に入札が行われ施工者を決定し、設計者が発注者代理として監理業務を行っていた。
  イギリスにおけるCM方式採用の最初の事例として、70年代後半から80年代前半にかけてSt. Martin Properties(ディベロッパー)により行われたLondon Bridge City開発プロジェクトがある。CMrはニューヨークに本社のあるLeher McGovern社が担当して建設計画の全体調整を行い、イギリスのLaing Management社がマネジメント・コントラクター(MCR)として実質的な工事管理を行った。しかし、CM方式の本格的普及は80年代後半以降とな る。

 イギリスのCMの歴史は1980 年代初めよりイギリスで独自に普及してきたマネジメント・コントラクト(MC*)と80 年代後半にアメリカから導入されたピュア CM方式の二つの段階に分けられる。以下、それぞれの経緯と実態について説明する。

 

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London City Bridge開発プロジェクト

 

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工事中のMarks & Spencer's

 

■ 1980年代:MC方式の発展と衰退

 イギリスの建築許認可は、都市計画法による「開発許可」と建築基準法に基づく「建築確認許可」の2段階に分かれている。これにより開発許可取得後に工事を着工し、詳細設計・施工段階で順次建築確認・許可を得ることが可能である。
  MC方式では開発許可取得とファストトラック採用を前提として、設計と施工を並行して進め、大幅な工期短縮を図り、設計変更の自由度を大きくした。イギリ スのBovis Construction社は1920年よりMarks & Spencer’sの店舗を実費精算方式で施工していた。80年代になるとさらに全国の同大型店舗をはじめ、多くのプロジェクトをこのMC方式で施工して いた。
 80年代半ばからイギリスの不動産ブーム到来により、早期着工・完成を可能とするMC方式はディベロッパーに積極的に受け入れられ、多く の民間商業施設や空港、大型複合ビル等に採用された。その結果、一般の建設会社はMC業務を新たなメニューに増やし、建設市場は混戦模様となった。その 間、公共工事および小規模で単純な民間建物では、従来通りの一括発注方式が引き続き採用された。
 MCR新規参入組による建設ブームの結果、MC 方式の本来の目的と現実とに乖離が生じ、さまざまな問題が顕在化したため、発注者側にMC方式採用を見直す動きが出始めた。不動産ブームの終焉を告げる 1987年のブラックマンデー以降、MC方式はほとんど採用されなくなった。1990年にイギリスレディング大学が発刊した調査レポートにMC方式採用事 例の問題点が報告されている。主要な問題点として以下の事項が挙げられる。

・MC方式採用により発注者にリスクが転嫁されることが充分認識されていなかった。
・MCRは法的にはコンサルタントでも請負者でもない中途半端な存在となった。
・MC方式に適合した標準契約書が整備されない状況で多くの工事が行われた。(JCTのMC標準契約書は1989年に初版が発行されている。)
・MCRと専門工事業者間で一部不明解な取り決めが行われ、発注者へのコスト負担増と不信感を高める結果となった。
・専門工事業者への厳しい支払条件(出来高査定、保留金等)の結果、発注者にとっては金利負担を上乗せした形でのコストアップの要因となった。
・設計完成度の低さ、MCRの経験・管理能力・責任感の欠如、発注者の判断/承認の遅れ等により、設計変更の増加・工期遅延・品質低下・コストアップが生じることとなった。
・専門工事業者への大幅なリスク転嫁(工事遅延責任、瑕疵担保、仮設工事、資機材・仕上げの養生、業者間のクレーム処理等)が行われた結果、係争問題が多発した。

 

■ 1980年代後半~1990年代:MCからCMへの変遷

 80年代半ばよりロンドン金融街では外国企業の資本投下によりビッグバンが起き、ブ ロードゲートやドックランド等の大規模な開発プロジェクトが次々と計画された。しかし短期間で完成させるためにはMC 方式採用時のMCR業者の処理能力に限界があり、アメリカのCM方式導入によりMCの経験を踏まえてイギリスの建設事情に合致したピュアCM方式が提案・ 採用された。
 CMrは設計者、積算士(QS)と同様にコンサルタントチームの一員となり、発注者はCMrを通して大規模かつ複雑なプロジェクト を直接管理できるようになったが、専門工事業者と直接契約関係を結ぶことにより、発注者の管理業務は従来の請負方式やMC方式より飛躍的に増大した。
  イギリス式CM方式の特徴の一つとして専門工事業者の発注区分が挙げられる。MC方式では多数の専門工種(Work Package)に細分化して発注されたが、CM方式ではMC方式での問題点を改善し、より大きなパッケージ(仮設、基礎、地下躯体、地上躯体、外装、内 装、設備、外装等)に分割し、それぞれのパッケージを請け負う専門工事業者(Trade Contractor)は、さらに複数の専門工種サブコンと下請契約を結び、実施設計および施工面での技術支援を行いながらミニゼネコン的立場で各履行範 囲をまとめる形態となっている。CMrは発注者、設計者およびパッケージごとの専門工事業者との調整により専念し、工事全体の統括管理業務を行っている。 経営的にも堅実で技術力・管理能力の高い専門工事業者への発注により、スペシャリストの請負業者が誕生し、CM方式の信頼性は高まった。特に、仮設工事関 係を専門に行うLogistic Trade Contractorが新たに登場し、業種間の隙間を埋める役割を果たしている。
 もう一つの特徴 は、商業賃貸ビルにおいて躯体・外装を先行し、後でテナント要求に基づく内装仕上げを行うシェル&コア方式の採用により、CM方式が普及してき た。CMrは建築主側の立場で本体工事を担当し、テナント工事も管理できる立場となり、契約的にもフレキシブルに対応できる体制となっている。

 

■ 2000年代:CMの現況

 2001年のイギリスのCM契約発注実績を見ると10件(総発注件数の0.4%)で、 1998年の19件(0.8%)に比べ発注件数では減少傾向にある。しかし工事金額では、4億円以上から100億円超の工事に集中しており、CM方式が大 型プロジェクトで市場を伸ばしていることが推察できる。
 現在、イギリスにおけるCM方式は、建設業務に精通した少数の発注者が繰り返し採用して おり、その対象は大型で複雑な建物、不確定要素が高く長期に渡るプロジェクト、大型店舗や共同住宅のように同種類の建物が連続して出件するケース等に限定 されている。また、同じCMチームを継続して使うことによる習熟効果や調達メリット、品質や工期に対する信頼性も評価されている。CM方式採用により、設 計チームは本来の設計業務に専念できるようになり、CMrと専門工事業者の早期参画により、実施設計情報を早く設計に取り込むことが可能となった。

 契約面については、MC方式のJCT標準契約書をベースとした、発注者と CMr(C/CM)および専門工事業者間(TC/C)とのCM標準契約書とCMガイドが2002年にJCTから発刊されている。専門工事業者との契約は、 工費・工期の変更条項付きの一括請負ベースが多く、工期とコストについて発注者との事前合意を行ってから正式契約に至るケースが増えている。CM方式にお いては、専門工事業者の管理責任範囲とリスクは通常の下請工事契約に比べて高まるが、発注者・CMrの了解の下で早期に参画することにより、専門能力をよ り有効に発揮できる場が与えられ、クレームや係争問題はMC方式の場合に比べて減少している。発注者からの要請により、GMP付きや工期内完成を条件とし たアットリスク型CM契約も一部で増えている。
 CM業務合理化のため、最近では一部のCM会社でインターネットを使った電子商取引・支払処理も導入されている。