機関誌特集記事 「拡がるCMの現在とこれから」(後半)

機関誌特集記事より拡がるCMの現在とこれから[CPD認定対象記事]

Part1CMの役割はますます重要になっている(後半)

これからのCMに求められること

司会世の中が今後どう変わっていくのか、その中でCMrあるいはCM会社はどのように対応していくべきなのかについて、どのように考えますか。

榎本最近大手ゼネコンが、ZEBやBIMなどの新規領域に取り組んでいることを見聞きします。大手ゼネコンだと企業母体が大きいので人材も豊富ですし、新規事業領域に対する投資にも積極的であり、本来だったら我々が知らなければならないことなのに若干遅れ気味ではないかと危惧します。同業他社やゼネコン・設計事務所・デベロッパーなどが、将来についてどのように考えているのかをいち早くインプットしていかないと、CMrとしての立ち位置が難しくなってくるような気がします。

三菱地所設計担当プロジェクト 名称:三菱鉛筆本社プロジェクト 業務フェーズ:基本計画~工事段階(CM+第三者監理)及び開業準備まで

三菱地所設計担当プロジェクト
名称:三菱鉛筆本社プロジェクト
業務フェーズ:
基本計画~工事段階(CM+第三者監理)及び開業準備まで

司会それはゼネコンが先導する格好でクライアントが変化しているという気配が感じられるということなのでしょうか。

榎本クライアントも変化していますし、マネジメントする側に知識のないことが分かってしまうと、なかなかマネジメントがしづらくなってしまうと思います。例えば今、月や宇宙に建築をつくるとなったときに、たぶんCM会社で宇宙建築の知識のある人はほぼいないでしょうし、大手ゼネコンのノウハウのほうがずっと多いと思います。CMが必要とされない業界をつくられてしまわないか、とても脅威に感じます。

鈴木私も業界の先のことを意識してどんどん勉強していかないといけないという危機感があります。外資系の企業でCMをやっていた人が、日本でのCMと、海外でのCMとでは、責任の重さが違うと話していました。今後日本のCMのやり方がどう変わっていくのか気になります。

高松当社はインハウスの設計事務所ですから、その強みを生かしたCM戦略は当然あります。でもお客様にはもっと幅広い要求もあるのだろうと感じます。例えば当社はお客様と業務契約するときに、業務仕様、つまり業務メニューを示しますが、実際はそれ以外の要求も多く、予め規定できない業務が本当は求められていたのか、それともやっていくうちに新たに発生するのだろうかと考えてしまいます。本当はオールインワンでCMrに全部お願いしたいのだけれど、「そこまでの業務をお願いしていないし」とお客様が遠慮されているところがもしあるとしても、CMrとして「なんでも言ってください」となるべきですし、柔軟に対応するように心掛けています。

榎本確かに、私たちがお客様のよろず窓口のような存在になれれば、CMrとしての仕事の領域がもっと大きく拡がっていくのかもしれません。
 また、現在他の業界では経営層が30~40代の企業も多くあります。建築業界はもともと管理職や役員の平均年齢がかなり高く、これまでの経験値重視のやり方のみではなかなか通用しなくなってしまう可能性もある為、我々や我々より上のベテラン層の方々の意識改革も必要ではないでしょうか。初心に返ってこれからのCMではどんなことを求められているのか考えていきたいと思っています。

三菱鉛筆本社プロジェクトスケジュール

三菱鉛筆本社プロジェクトスケジュール

三菱鉛筆本社プロジェクト体制

三菱鉛筆本社プロジェクト体制

目指すCMr像

司会今後、CMr個人として目指したいことを聞かせていただけますか。

榎本10年以上この仕事に携わってきて、1つのモチベーションとしてCM選奨があります。担当したプロジェクトで2016年、2018年、2020年と2年おきに3つのプロジェクトで受賞し、プレイヤーとしての実績に自信が持ててきたと感じています。
 これからの業界を考えていくと、やはり後輩の育成でしょうか。学生たちに対するCMの位置づけやイメージづくりも大切です。若い人たちにこれからのCM業界に魅力を感じてもらえるような活動ができたらいいですね。

高松CMrの原理原則は「発注者の支援」なので、ひと言で言うと「信頼を得ること」だと思っています。ただし、常に時代の中で求められているニーズも変わってくるので、こちらも変わらなければならないと痛感します。次はこうかもしれないと思いながら、常にお客様の思っていることを察知して寄り添いながら、一歩先を行くといった姿勢が大事なのではないでしょうか。

鈴木私はもう少しで2歳になる子どもがいます。子供が産まれるまでは、時間の制約を余り意識せずに仕事をしてしまっていましたが、これからは押さえるところを押さえながら育児と仕事を両立していく方法を考える必要があります。そのようにこれからCMrの働き方、そして私自身の働き方も変わっていくと思っています。

CM協会の役割

日本CM協会 谷口常務理事

榎本さん担当プロジェクト
名称:四国水族館 CM業務
業務フェーズ:
基本計画段階~工事完了まで

司会今後CM業界が、あるいはCM協会がまとまりをもって動いた方がいいと思うことはありますか。

鈴木私は会員交流委員会に長く入っていましたが、そこで知り合った人たちが、同じプロジェクトに関わっていることがありました。私が途中から参加したプロジェクトでも知っている人がいるだけで、精神的にも入りやすかったということがあります。いくつかのCM会社で協力して大きなプロジェクトに参加することはこれからもあるでしょうから、CM会社が普段から交流できる場所がCM協会にあるといいなと思っています。

高松会員交流委員会ではまさに人脈の拡大という目的でずっと活動してきましたので、鈴木さんは会員交流委員会で出会った方々とお仕事も一緒にされているという、とてもいい事例だと思います。CM協会のスクールやフォーラムに当社からもよく参加していて、そこで知識はもちろん人脈もつくれるのかもしれませんが、もっと多くの横の人脈をつくる機会や、会員交流委員会でなければできない交流の仕方などももう少し考えていきたいです。

榎本もっとCM協会が明るく楽しくお洒落に見えるブランディングが大事なのかもしれません。「CMって何をやっているの」という話を建築業界の中でも聞きます。建築学科の学生が、卒業後どこの業界に行こうか考えるときに、「CMっていいよね」と言ってくれるくらい、世の中に対してのブランディングが必要な気がします。

高松だんだんCMが浸透しつつある感触はあります。当社を受ける学生さんの中でも、CMをやりたいという希望が多くなってきて、手応えは少しずつ感じていますが、もっと分かりやすく広めていければいいですね。それが協会の役割なのかもしれません。

景気の波に立ち向かうには

谷口(理事)ここ7~8年くらい建設投資が増え、CMの注目度も非常に高まってきましたが、このコロナ問題で、景気の厳しい状況が生じるかもしれない中でのCMの立ち位置やCM業務にかける意気込みなどを聞かせてください。

榎本これから中断したり、延期されたりするプロジェクトが増えてくると想像しますが、困ったときにこそ、我々のCMの仕事を効果的に広めていけるのではないでしょうか。景気の波に飲まれて我々CM業界もしぼんでしまうのはとても悲しいことですので、長期的なCRE戦略なども併せて考えながら、クライアントに寄り添っていきたいです。クライアントと共に中断・延期するプロジェクトに立ち向かい、お客様のリスクや損害を最小限にとどめるように支援することができるのがCMrだと思っています。

日本CM協会 谷口常務理事

日本CM協会 谷口常務理事

高松CMが注目される以前から、発注者の立場に立って支援することはずっと変わらずにCMのベースにあります。コロナのために、特に着工後の現場に影響が出始めていますし、「他の物件はどうなのですか?」と必ず聞かれます。アンテナをちゃんと張って、「あそこはこうですが、私たちはこうしましょう」というアドバイスがきちんとできて、信頼されることがまさにチャンスですから、こういうときこそ横連携をして、CM業界として情報交換ができればよりいいと思います。

鈴木おふたりがおっしゃったことはまさにその通りだと思いますし、それに加えCMの領域は結構幅広く、工事に直結したところ以外でも、例えばまちづくりのCMなどのように、私たちがやれることはいろいろあるのではないかと思っています。

谷口(理事)景気が後退したらCMの重要性が無くなるということは全くありませんし、むしろ逆だと思います。非常に皆さんから前向きな答えをいただけました。今日はこれからCMの中核を担っていかれる世代の、フレッシュでありながらも実体験をふまえた非常にいい意見交換ができたのではないでしょうか。ありがとうございます。

司会皆さん、長時間にわたって、ありがとうございました。