川原会長 総評
日本CM協会設立20周年を記念して始めた学生エッセイコンテストも、2回目を開催することができました。今回はCMという領域だけに限定せず、身近なマネジメントにまでそのテーマを大きく拡げました。マネジメントそのものの根本理念は、建設領域のマネジメントであるCMにも密接につながっているという現実を、学生の様々な目線で表現してほしかったからです。
そのねらいは見事に的中しました。応募いただいたどのエッセイにも、独自の視点や比喩表現を擁してマネジメントを解りやすく伝えたいという意思であふれていました。さらにリーダーシップをコア媒体として用いたエッセイが多かったことも印象的でした。マネジメントの大切さやCMに対する学生の理解が、私たちの想像を超えて進んでいることを改めて実感しました。
今回のコンテストで学生の皆様からいただいた多様な形のメッセージを、日本CM協会も、ビジネスとして大いに受け入れられる領域にまで拡げ、未来にしっかりつなげていきたいと思います。
応募いただいた学生の皆様、本当にありがとうございました。
日本コンストラクション・マネジメント協会 会長 川原秀仁
日本コンストラクション・マネジメント協会 会長 川原 秀仁
受賞者
他業界におけるマネジメントからみたCMについての考察
「CMってなに?」
CM職を志望して就職活動を進めていると、友人や家族からこう何度も尋ねられる。しかし私は、この問いに対して明瞭かつ簡潔な答えを返すことは一度も出来たことがない。IT業界に就職した友人と居酒屋で話していた時、就活の話題になり同様の質問を投げかけられた。私が時間をかけて自分の知る限りのCMの業務内容を説明すると、その友人は「IT業界のPM(プロジェクトマネジャー)やコンサルと似ているね」とIT業界のPMとコンサルの役割について教えてくれた。
IT業界におけるPMとは、クライアントの要望を受け、それに沿ったシステムを構築するために、システム開発計画を練り、チームを編成し、その後はチーム内外の調整を行いながらプロジェクトを推進していく役割である。そしてIT業界におけるコンサルとは、ITに関する専門的な知識を持った技術者として、クライアントのもつ潜在的な要望を見つけ出しシステム構築へ向けた技術的な提案、問題の解決を図る役割である。
無論、建築業界にもPMや技術コンサルは存在するが、近年はそれらがCM業務にも手を広げている。言われてみればCMとは、こうしたPMやコンサルの業務を一手に引き受けるような役割であり、PMやコンサルがCM業界に参入するのは自然な流れであると思う。しかしここで疑問に感じるのは、それぞれ出自が異なり得意分野と不得意分野があるCM会社を発注者が適切に選定できるのか、という点である。もしCM会社の能力が足りなかった場合は、発注者、設計者、施工者などの関係主体すべてに不利益が生じる。そのため、CM会社は自らの業務範囲を明確に定めるか、企業が成長する中で不得手を無くしていくといった対策をとるべきだと考える。
このように居酒屋での何気ない会話からCMと他業界のマネジメントについて考えることになるとは思いもしなかったが、マネジメントとは案外、自分にとっても、友人や家族にとっても身近なものなのだと感じることが出来た。今回のエッセイを通して、就活や研究を続けるうえで建築に固執せず幅広い業界を見据えることも大切なのだと考えるようになり、視野が広がったように感じる。今後は身近にあるマネジメントにアンテナを張って過ごしたいと思う。
コミュニティをマネジメントするということ
「コミュニティマネージャー(Community Manager)」という職業を聞いたことがあるだろうか。私の仕事だ。奇遇なことにこれもまた「CM」と略される。私は普段、大企業から学生スタートアップまで、所属や年齢が異なる500人以上が集う施設でコミュニティ・マネジメントに従事している。私にとって最も近くにある「コミュニティ」からマネジメントについて考えてみる。
そもそもコミュニティ・マネジメントとは何か。定義は難しいが、求められる役割は明白だ。それはコミュニティの舵取りとなり、価値を最大化させること。一般にコミュニティマネージャーにはスペース、メンバー、イベント、メディア、プロジェクト、セルフリソース、これら6つのマネジメントスキルが求められるといわれている。つまり全部だ。物理的な場の設計から、日常的に発生するメンバーとのコミュニケーション、コミュニティ内外を繋ぐイベントや広報まで、このすべてがコミュニティのエンゲージメントを高めることに直結する。特に「セルフリソース・マネジメント」の重要性を私は強調したい。なぜならコミュニティは永続的なものになりうるため、向き合い方を決めなければときに自分のバランスを崩しかねないからだ。
これまで三年間、アルバイトながらにあるべきコミュニティ・マネジメントの形について問うてきた。管理しすぎることで可能性を狭めかねないし、とはいえ管理しなければ無法地帯になりかねない。コミュニティ・マネジメントは試行錯誤の繰り返しだ。
個人が活動しやすくなった今日では、偏愛や興味・関心を軸に多様なコミュニティが次々に生まれている。しかしそのほとんどが5年以内に死んでいるといっても過言ではない。それぐらいコミュニティという生き物は繊細で、儚い。だからやっぱりマネジメントする必要がある。コミュニティが生き物ならば私たちコミュニティ・マネージャーは空気であり、水である。決して主役ではないが、コミュニティのすべてを誰よりも理解しようとすること。それがコミュニティマネージャーの使命だと思う。アメリカの都市経済学者リチャードは『クリエイティブ資本論』の中で、働くことの動機づけにおける非資本的な価値としてコミュニティの可能性について言及している。コミュニティの可能性が期待されるこの時代に、コミュニティ・マネージャーという仕事に携われていることを心から誇りに思う。
私の経験から思うマネジメントの特徴
私の近くにあるマネジメントは、過去を辿ると意外な所に入り込んでいた。それは、大学生時代に経験した飲食系アルバイトである。
飲食店の業務は、大きく分けてホールとキッチンの2つである。勤務先の雇用契約では、どちらか片方の業務に従事することとされていた。その中で私は、両方を経験した際に感じたことがある。それは、2つの異なる業務が主としているストアオペレレーション(接客・料理)以外の店舗運営を担っているスーパーバイザー(以下、SV)の重大さだ。普段働いている際は、各業務のリーダーからの指示を仰ぎながら業務を遂行していたため気づかなかったが、店舗内における関係者を統括しているキーマンであると感じたことだ。
SVは「本部」と「店舗」の調整役として、会社利益の最大化を図るために店舗実態に合わせて運営マネジメントを行う役職である。1日の中で店舗スタッフ(ホール・キッチン)は時間帯によって異なるスケジュールがあることから勤怠・シフト管理といった事務的な業務等がある。さらに店舗責任者としてのリスクマネジメントがある。例えば、お客様のアレルギー対応や有事の際の全体指示等が挙げられる。
こうした様々なフェーズがあることから、1つの役職に囚われないマネジメントが存在していたことが考えられる。
本部は利益向上が使命であるため、各店舗の問題点や課題解決策に対する柔軟な対応が必須である。その他にも、事業戦略や人事、財務等の中枢的機能を担っている。一方、店舗側はスタッフの人材育成やお客様へのサービスに従事する。そのため、それぞれの関係者における業務量のギャップ等があり、ミッション達成に向けて苦労することが考えられる。ミッション達成度に対しては、SVが店舗に従事した初めのタイミングから運営実施を継続して関わることが重要となってくるだろう。これにより、利害関係者と長期的に近い距離で接し、現場の声を考慮し、与えられたミッションを多角的な視点で考えることができると私は考える。
今回はアルバイト経験からマネジメント業務の発想を得た。マネジメントという視点が加わることによって、売上と利益の最大化を本部・店舗双方の考え方から汲み取り、1日の店舗運営プロセスに合わせたミッション達成の推進の実現が挙げられる。さらに、飲食業界のSVも、建設事業でのCMrも、共通して組織全体として成果を上げる上でマネジメントの視点は必要不可欠だと実感した。
「味方」になる仕事
「『出来ません』ばっかりだったんだよな」
某ハウスメーカー設計の実家に対して、父がぽろっと文句を言っていたのを思い出す。建築に関して素人である両親が、マイホームを建てる際に妥協と諦めを繰り返していた場面が目に浮かぶ。技術者として使い手の「味方になりたい」と漠然と思い始めたのは、父からこの言葉を聞いた大学二年の時からかもしれない。
マネジメントとは味方になることであると考えている。組織の目的を果たすために管理すること、として用いられる言葉であるが、この言葉を噛み砕くと「味方になること」だと考える。
部活動のマネージャーを例として挙げる。中学時代に所属していたバスケットボール部にはマネージャーが在籍していなかったため、部活動にまつわる環境づくりをプレイヤーで行っていた。そのような中、怪我が原因でマネージャーとして練習に参加する機会があった。部員の練習をサポートする立場になって得たものがある。それが相手の立場に立って考え、行動するということだ。部員が集中して気持ち良く練習が行えるように、プレイヤーの立場に立って考え、行動した。この経験が、自身を相手の立場に置いて考え行動する、つまり「味方になる」という私のマネジメント像に繋がっている。
CMrとは使い手=発注者だけではなく、建設プロジェクトに関わる全てのステークホルダーの味方となる仕事であると知った。ステークホルダーの数だけ立場があり、不満やわだかまりなくプロジェクトを進めていくことは難しいことだろう。その中にCMrが加わることで、関係者が気持ち良くプロジェクトに参加できる環境が生まれると考えている。
またCMrとは業務領域が曖昧であると感じている。その分、業務の拡がりや可能性に満ちており、今後は他領域との繋がりなども盛んになると学んだ。明確な業務領域が存在せずとも、CMrとは人と関わりマネジメントする仕事であるということは、共通して根底にあると考えている。
来年度から念願のCMrとしての一年目を迎える。大学二年次から考えていた「味方になる」仕事が見つかり、さらにその仕事ができるのは大変ありがたいことだ。また発注者やステークホルダーに味方にさせてもらえるよう、信頼を得ることは大切だ。現在は一学生、来年度からは新人として小さなことを積み重ね、将来は「あなたがいてくれて良かった」と言ってもらえるようなCMrを目指して努力していきたい。