学生エッセイコンテスト 2023年度 結果発表

川原会長 総評

2021年から始めた学生エッセイコンテストも、3回目を開催することができました。今回も2回目と同様、CMあるいは建設という領域だけに限定せず、「“○○○”×マネジメント」と題して、あらゆる事象の中から学生自らが選定したテーマを対象に、それに向けたマネジメント実践について言及する!という形式で出品を募りました。マネジメントそのものの根本理念は、建設領域のマネジメントであるCMにも密接につながっているという現実を、学生の様々な目線で浮き彫りにしてほしかったからです。

そのねらいは的中したと思います。建築・建設系に限らず、多様な学部・学科の学生から応募をいただきました。そしてどのエッセイにも、独自の視点や比喩表現を擁してマネジメントを少しでも解りやすく伝えたいという意思であふれていました。マネジメントの大切さやCMに対する学生の理解が、思いのほか進んでいることを改めて実感する結果となりました。今回のコンテストで学生の皆様からいただいた様々なメッセージを、日本CM協会は、CMをさらに受け入れられる領域にまで拡げ、未来にしっかりつなげていく原資としていきたいと思います。

応募いただいた学生の皆様、本当にありがとうございました。

一般社団法人日本コンストラクション・マネジメント協会 会長 川原 秀仁

日本コンストラクション・マネジメント協会 会長 川原 秀仁

受賞者

日本CM協会20周年事業 学生エッセイコンテスト 応募エッセイ

“音響”×マネジメント

東京藝術大学 音楽学部 音楽環境創造科学部1年 前田帆南

私は大学で音響学を専攻している。大好きなラジオを作る最大の要素である音に自らも携わりたいと考え入学した。インターネットが普及した現代では、SNSをはじめとした媒体を通して個人でも容易にエンターテイメントを作り出すことが出来るようになった。それでもなお、ラジオやテレビなどが主流なメディアとして支持されているのは、基盤を支えているプロの音響の存在のおかげだと考えている。音は感覚量に左右される部分が大きく、言語化にも限界があるが、だからこそ人の心に訴えかけることが可能な大きな力を有している。

皆が生活する上で何気なく聞いている「音」を作り出すことが音響の役割である。まず、録音するにあたって、音を出す人、場所、機材を揃えなくてはならない。ここでは、スケジュールのマネジメントができる人ほど、最大限の要素を活用できることになる。その後、どんな風に録音して、どう加工するのかは全て音響に一任される。沢山の人と一緒に爆音に包まれることが好きな人もいる傍ら、一人でひっそりと水辺の音を聴くことに心地よさを感じる人もいる。このように、個々の思う理想の音は異なってくるため、その場にいる人間が不快と感じない音を作るため、どこで流す音なのかターゲット層を探り、適切な環境を整える際にもマネジメント能力が要求される。様々な人の要望を汲んだ上で、可能な限りの道具や技術を活用して合致する音を作り上げる音響そのものがマネジメントであると言っても過言ではない。

大学に入学する前、音響は全て一人で舵を切れる孤独な役割だと過信していた。しかしながら、自身の経験を積み重ねるにつれて、全てのマネジメントを取り仕切るにあたり、不可欠なものは技術よりなにより「優しさ」だと知った。先述の通り、音を使った作品を全て一人で紡ぎ出すことは難しい。加えて、音を他人に届けるにあたって、自分の理想を持つことも大切であるが、それ以上に聴き手の存在を尊重する必要がある。CMを含めた全てのマネジメントに共通するのかもしれないが、人と人の媒介となる存在を務め上げるには、思いやりを持ったコミュニュケーション能力が真っ先に要求される。

スポットを浴びることは少ないものの、メディアやアート作品を大黒柱として陰で支えている音響に私は強く憧れている。「優しさ」をもったマネージャーになることで、いつかラジオから理想的な音を届けられるようになりたい。

“地方創生”×マネジメント

芝浦工業大学大学院 理工学研究科 建築学専攻 修士1年 大野 実拓

私の”ものづくり魂”に火をつけたのは四年前に参加した「木桶職人復活プロジェクト」だ。

このプロジェクトは小豆島のある老舗木桶仕込み醤油店が主導して行っており、絶滅の危機に瀕している木桶職人を育成するために始まったものである。私は約一週間小豆島に滞在して醸造用の新桶を職人とともに作ることで醤油や木桶の魅力に傾倒されてきたが、社長のある話に深い感銘を受けた。

それは常に「オープンな姿勢」でいることだ。

ここでは蔵の見学や木桶作り体験など、柔軟に様々な人々を受け入れている。木桶作りのノウハウを一企業が独占することなく、お店に興味を持ってくれた人々に提供することで、子や孫の代まで木桶醤油を残そうとしている。そして社長は木桶醤油のシェアを大幅に拡大させることは全く考えていないと言う。限られた1%のシェアを2%にすることでその生き残りと普及を目指しているのだ。

このように私は一週間を通して木桶醤油の未来について考えさせられてきた訳だが、社長の話を聞いてふと次のように思った。

これは地方の課題を一つの例として体現しているのではないかと。

我が国では地方と都市の賃金格差が顕著である。故に地方では優秀な人材が次々と都市部に流出しているのが現状だ。この状況が続けば大半の地方公共団体は破綻してしまうと言っても過言ではないだろう。

そこで地方創生のマネジメントを醤油店から着想を得て考えてみた。

まずは地方をオープンにしよう。地方における閉鎖的なコミュニティはニュースでも有名な話だ。そして地域で最も潤っている産業に焦点を当ててリソースやノウハウを公開して地域への興味を引き寄せれば優秀な人材を呼び戻せるのではないか。
しかしそれだけで地方が活性化するとは限らない。なぜなら地方では少子高齢化、人手不足、インフラ整備など数多くの課題を抱えているからである。そこで私は「ジェネラリスト」の育成を提案する。幅広いスキルと知識を身に付け、異なる分野にまたがる課題の対応力を身に付けることで、人手不足の地方においても少人数で持続可能な社会を構築しようではないか。

このように私は地域資源と人的資源を有効活用することが地方創生を成功させるマネジメント戦略の鍵であると考える。

そんな私は現在、ものづくりに関する研究している。

私も醤油店の社長のように人々にオープンな姿勢で研究活動を行うことでものづくりの楽しさをみんなに広めたい。

“ワンダーフォーゲル部”×マネジメント

広島工業大学 環境学部 建築デザイン学科 3年次 土井 究太

ワンダーフォーゲル部とは、登山を中心にアウトドア活動を行う部活だ。僕はそのリーダーを1年間やってきた。他のクラブと違うことと言えば、全ての企画から実施までを学生だけでしなければならないことだ。したがってリーダーを含め、部員のやる気次第でその年の活動のクオリティが変わってくる。そして限られた予算と時間の中でいかに良質な活動ができるかは、その年のリーダーで変化する。僕自身は同級生からの指名かつ立候補でリーダーになった。このエッセイではいかにマネジメントの力で部活を変えたかの話をする。

まず圧倒的にお金が必要であった。というのも大学から支給される僅かな金額も半年が経たないと、振り込まれない。前年度からの繰越もない。これでは活動資金が足りない。昨年度までの先輩は不定期の活動毎に参加者に5000円ほど請求をしていた。そこで毎月1500円の部費を集金することとし、年度初めの年間払いと年間で18000円から15000円に割引をすると決定した。するとほぼ全員が支払った。部員は40人以上いるため、一気に60万円を調達した。結果的に部活動で必要な部品も大型セールのときに購入し、計画的に資金を使い部員に還元することができた。それだけではなく、積極的に活動をしないとお金を払ったのにもったいないので、部員の参加率も上がった。

次に、悪しき慣習をなくす必要があった。例えば、部室が汚すぎることや、学生が建設的な意見を言えてないこと。単にアクティビティを行っていたことなどだ。そこで部室の大掃除を予算も割いた上で実施し、本当に必要なものだけを残した。さらに部活LINEも廃止し、Slackを導入することで双方向の会話が可能となった。活動も他大学とのコラボや短時間イベント、京都合宿なども実施した。その結果、活動に参加した人のうち9割以上から「とても楽しかった」など言われた上、今年度から始めた活動後アンケートで、評価は5段階中4.5を下回っていない。

様々なことを実現しようと思っても、それに必要な手続きや予算、何より部員の気持ちや要望をいかに反映できるかを考えるべきだ。これら全てがマネジメントに関すると体感した。僕自身は部員には「主体的に動く」「理解に徹する」「感謝を伝える」「出来ないことに挑戦する」「他者に貢献する」ということの大切さを示してきたつもりである。来年度の部員やリーダーが僕の世代で築いた勢いを伝承して、どうアレンジしてくれるかに期待をしたい。

“高校教育”×マネジメント
高校教育におけるマネジメントの重要性

立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科 ビジネスデザイン専攻 博士課程前期課程 1年 荻田 翔瑛

高校教育とマネジメントを掛け合わせることで大きな効果を生み、将来の大事な基盤になると考えている。当時、私が高校生時代に「もし高校野球の女子マネージャーがドラッガーのマネジメントを読んだら」と出会いマネジメントに興味を持ち私生活の中に取り入れて良い効果を実感した一人でもある。

ドラッガーの著書「マネジメント」の中で、マネジメントとは、「組織に成果を上げさせるための道具、機能、機関」と定義されている。実社会では、目標達成するためには限られた経営資源を管理し、最大限の成果を上げることが必要となってくる。

当時、通っていた学校は新設校で自由な校風であったため自分の目標を達成するためには、限られた資源、時間を管理しなくてはいけない環境であった。課題と優先順位の設定を整理し目標達成するための行動をした。マネジメントを活用したことで様々な課題に対して様々な視点から取り組むことができた。現在も様々な取り組みをする上で大事な基盤となっている。

近年、AI、テクノロジー技術の発展によりたくさんの情報を得やすい環境にある。私たちは急速な時代変化の中で生きており、今後も技術の発展により生活はより良くなっていくと考える。一方で現代は急激に変化するため常に情報を更新し学ばなくては生き残ることは難しい。この急激な変化に乗り遅れないためには自らをマネジメントすることは重要である。そのため、高校教育の段階からマネジメントを学ぶことは必要だと考える。具体的には、指導する先生もマネジメントを学び、卒業し社会で活躍している先輩を交えて実体験からマネジメントを学ぶ会を開き、学校生活の中で生徒が実際にマネジメント体験できる機会が必要だと考える。

高校卒業後は就職または進学へと将来の方向性について考えなくてはいけない。進路選択は、人生に大きく影響するためよく考えて判断しなければいけない。マネジメントを学び理解することで、課題解決に対しての力やスキルなどを身につけることができる。また、主体的に物事を考える力も身につけることができる。

高校教育にマネジメントを学ぶ機会を与えることで、学力向上だけでなく自ら学ぶ習慣を身につけ、変化の激しい時代に対応していくことができる。そして、マネジメントを学ぶことでより良い社会を実現することができると考える。

“オーバーツーリズム”×マネジメントで未来の観光地を守る

椙山女学園大学 現代マネジメント学部 現代マネジメント学科 2年 野田 歩実

コロナ禍が収束しつつありインバウンドが増加し続ける最近、「オーバーツーリズム」という言葉をよく耳にする。簡単に説明すると、観光地にキャパシティオーバーといえる規模の客数が集まることにより、悪影響を及ぼすことである。それは、主に地元住民や自然環境・インフラ等を混乱させ「観光公害」として認知される。

実際、観光地にてゴミを当たり前かのように道へポイ捨てしていたり、車が来てないという理由で赤信号でも道路を渡っていたりする訪問客であろう者を私も目にした経験がある。これらだけでは無いが、観光客の度が過ぎた行動により、場合によってはその地域のイメージに繋がり、純粋に楽しんでいる旅行客の満足度を下げる可能性すらある。

現代マネジメント学部で日々学んでいる私にとってマネジメントとは、「物事と向き合い、対策・管理することの繰り返し」であると考えている。今回の題材において考えると、観光に関わるステークホルダー全員が共同しながら取り組むこと、そして観光客の「(また)ここに行きたい」・地域住民の「良さを更に広めたい」を共存させる必要がある。過剰にマネジメント(管理)をしすぎると人が集まらず観光地として良くない印象を与えるが、観光客の自由を尊重しすぎると無法地帯と化す。

そこで、PDCAサイクルを実行し続ける必要がある。例として1つの場所に人が集中しない計画を立てる→実際にアプリやスタッフ等を利用することで実行する→団体が分散しているかどうかチェックをする→改善の余地は無いか…など、観光位の品質を持続するためにこれらのマネジメントが必須となる。

そして、オープンシステムもマネジメントの考え方として重要である。上記でも例として挙げたように、人が一部に密集することを防ぐためのアイデアやアプリ・スタッフなどを経営資源としてインプットし、完成したプランをサービス提供として再び外部へアウトプットする。加えて、「観光公害であるオーバーツーリズムを防ぐ(減少させる)!」という共通目標を団体で掲げ、そのために実際にSNSも含め活動を通して目標達成を図る。これらに継続性が加われば、その効果は1+1=3以上となりマネジメントとして成立していくのである。

自分達にとって身近な文化を守るためにも、観光客の為にも、持続可能な観光を心がけ「マネジメント」によって守り続けていくことは重要であり有効的なのである。