第4回学生エッセイコンテスト講評

総評

2021年から始まった学生エッセイコンテストも、今回で4回を重ねます。今回も、CMあるいは建設という領域に限定せず、「マネジメントが描く未来の風景」と題して、マネジメントそのものが、学生自らが思い描く未来の風景をどのように形づくり、あるいは浸透していくのか!という壮大なテーマで出品を募りました。

たとえば、コロナ禍以来急速に進展するデジタル変革の中で、社会活動の普遍的理念であるマネジメントがどのように結びつきどんな世界をもたらすのか、学生のみなさん自身が担っていく未来社会をどのように描いてくれるのか、等々に期待を寄せました。そのテーマが例年に比べて大きすぎたせいか、着眼した未来の対象とマネジメントをうまく繋げずに苦戦しているエッセイが多かったのも今回の傾向でした。独自の視点やテーマは目を引くものがたくさんあっただけに、マネジメントとの関係性を的確に表現されていればと、非常に惜しいといった印象です。

そんな中でも建築系選考の学生のみなさんの健闘が特徴的でした。これは、建設領域のマネジメントであるCMの未来に、明るい材料を提供してくれると実感しました。

応募いただいた学生の皆様、本当にありがとうございました。

(審査委員長:日本CM協会会長 川原秀仁)

受賞者

第4回学生エッセイコンテスト 応募エッセイ

ドラッカー理論と共に描く感動マネジメントの未来

⼯学院⼤学 建築学部 建築デザイン学科 3年 江連 ⾒優

現代のビジネス環境におけるマネジメントの課題解決のアプローチについて、スターバックスでの経験とドラッカーの考えを基に私の視点から述べる。

私の考えるマネジメントとは、⽬標に向かって⼈々を⽅向づけ、率先して導く⾏為である。それは単に計画を実⾏するに留まらず、顧客や関係者すべてに「感動」に近い⼼動かされる瞬間を提供するものであることが理想である。これは、ドラッカーが提唱した「顧客の創造」や「社会に価値を提供する組織」を⽬指すマネジメントの本質に通じていると感じている。現在、私はスターバックスコーヒーでバリスタトレーナー(BT)として新⼈教育を担当し、顧客とスタッフの双⽅に対応している。BT の役割は、店頭で顧客やスタッフと直接関わり、リアルタイムな判断と柔軟な対応⼒が必要とされる。これに対し、シフトスーパーバイザー(SSV)は、リソース管理やシフト調整など、組織全体の視点でチームの効率を最⼤化する技術が求められるものだ。私はBT として現場の温度感を肌で感じ取る経験が、質の⾼いマネジメントへとつながると考えており、昇進についても慎重に検討している。

では、こうした経験を踏まえた理想のマネジメントとはどのようなものであるか。それはドラッカーが述べたような「⼈を信頼し、⽬標を共有し、全員が⾃⼰の可能性を最⼤限に引き出せる環境」を整えることである。たとえばBT としてスタッフが意欲的に業務に取り組めるように⽀援し、顧客にとっても感動を提供できる場を築くことを⼼がけている。顧客やスタッフの⼼情に寄り添い、安⼼して業務に臨める環境づくりはトラブルの未然防⽌や業務の効率化に⼤きく貢献している。

スターバックスのマネジメントは、柔軟性とコミュニケーションを重視した組織運営が特徴であり、「⼼理的安全性の⾼い場」を提供することで、従業員のモチベーション向上につながっている。全員が⼀つの⽅向に向かい協⼒し、顧客と感動を共有する場を築くためにリーダーシップの責任は⾮常に⼤きいと感じている。

マネジメントで課題を解決した先に⾒える未来の姿は、個々の成⻑と達成感、顧客が得る⼼地よい体験に満ちた環境である。これこそが私の理想とする「感動を⽣み出すマネジメント」であり、ドラッカーの理念とも重なるものである。この視点を⼤切にしながら⾃分の役割が成⻑にどのように寄与できるかを模索し続けたいと考えている。

情報が未来を描く -雑誌編集者の役割と重要性-

東京理科大学 工学部 建築学科 4年 石井 万葉

雑誌は情報を届けるためのメディアである。人は情報をもとに意思決定を行い、未来を創っていく。つまり、情報を届けることは、未来の風景を描く手助けをすることだといえる。インターネットの発展により以前ほどの勢いを失った今でも、雑誌というメディアが有益な情報源であることに変わりはない。それは、雑誌が一つのテーマに基づいて情報を収集・編集し、デザインを通じて視覚的に伝達するという特性を持っているからである。それゆえに、制作現場では、記者、カメラマン、誌面デザイナー、広告を掲載する企業など、多くの人の協力が求められる。そして、雑誌の編集者には、それらの人々の調整役としてのマネジメント能力が必要とされる。

私がその重要性を学んだのは、大学のサークルでの雑誌制作の経験からだ。特に印象に残っているのは、先輩のマネジメントの姿勢だ。彼は、試験などのスケジュールを考慮して計画を立て、全体ミーティングでは常に目標の確認と進捗共有を行っていた。また、問題が起こったときにはそれを全員で共有し、異なる作業を担当する人同士が意見を出し合える環境を整えていた。その結果、私も誌面デザインの担当者として「季節感のある写真を撮ってほしい」といった要望をカメラマンに伝えたり、逆に取材担当者から「記事が長くなるので、それに対応できるレイアウトを考えてほしい」といった要望を受けたりと、相互に協力して作業を進めることができた。こうしたチームの連携により、満足のいく誌面を完成させることができ、それを見た後輩が入部を希望してくれるという成果も得られた。

それ以前の私は、完全な分業体制であれば、それぞれが与えられた作業に集中することが最善だと過信していた。しかしながら、この経験を通して、より良いものを作るためには他の担当者の意見に耳を傾け、自分にはない視点や知見を得ることが必要であると知った。そして、その連携を可能にするのが、編集者のマネジメントの力だと気づいた。

私は将来、雑誌や書籍の制作に携わる仕事に就きたいと考えている。雑誌制作に関わる人々が意見を交わし、互いに刺激を与え合える環境を整える編集者となることで、心に残る情報を届けたい。そして、それを通じて、読者が未来の風景を思い描くきっかけを作りたいと願っている。

感動を与えるマネジメント

芝浦工業大学大学院 理工学研究科 建築学専攻 1年 細田 みゆ

マネジメントとは何だろうか。これは、私が建築生産の講義や就職活動をしていて抱いた疑問である。建設業界には「マネジメント」がつく職種が数多くあるが、その役割や定義は必ずしも明確に共有されているわけではないと感じる。

印象に残っているのは、ある講師が言った「マネジメントとは、通常のやり方ではうまくいかないプロジェクトを成功に導くことだ」という言葉である。言葉の曖昧さを感じる中、少々抽象的ではあるがこの説明が私には特に腑に落ちた。『現代の建築プロジェクト・マネジメント』によれば、発注者支援者の役割に関する課題として、関係者から「発注者支援者の能力不足」や「PM という役割が一般的に認知されていないために玉石混交が生じている」といった声があることが紹介されている。さらに、「発注者支援者の権限と責任のバランスは、今後検討されていかなければならない課題」との意見もある。このように、「マネジメント」という曖昧な概念が、業務範囲の不明確さを助長している現状が浮かび上がる。

そのため、マネジメントの役割を明確にし、専門性を持つ人材が自身の責任範囲内で適切にマネジメントを行うことが、プロジェクトの円滑な進行につながるのではないだろうか。近年の建設プロジェクトは複雑化し、複数の利害関係者を調整する中で効果的なマネジメントが欠かせないため、発注者がマネジメントを必要とするケースが増えている。一方、コンサルティングサービスを提供する企業も多様化しており、新規顧客の獲得を目指して新たな事業を創出する必要が生じている。

このような状況において、企業ごとの専門性を活かし、発注者に適したコンサルティングを行うことが、マネジメントのさらなる重要性を引き出すと考える。最終的なゴールはすべての顧客へ感動を与えることに他ならない。このようにして、マネジメントは単なる管理業務の枠を超え、未来の建設プロジェクトにおける新しい価値創造の要として、発注者とともに「未来の風景」を築くことができるのではないだろうか。私も建設に関わる一員として、発注者が求めるものを的確に汲み取り、それを形にできる技術者として活躍したいと考えている。

マネジメントで描く医療の未来

関西医科大学 医学部 医学科 2年 舂井 遥名

私は日本の医療に貢献したいという思いから医学部に進学した。日本の医療制度は世界的に見ても充実しており、皆が平等にきめ細やかなサービスを受けることができる。このような医療体制の土台があるからこそ、私たちは安心して日々の生活を送ることが出来ている。誰もが当然のこととして捉え、特別に意識することは少ないだろう。正直、私自身も臨床的な面にのみ注目し、それらを成り立たせている仕組みについてはほとんど意識したことがなかった。だからこそ、授業を通じ日本の医療体制を学べば学ぶほど、強く感じる課題がある。

「現在の医療体制では、いつか限界を迎えてしまう」
近年よく耳にする少子高齢化や地方の過疎化といった社会問題は医療にも非常に密接に関わっている。保険料の増大や病院の経営破綻による医療格差などに繋がるからだ。現状維持では、いずれ破綻してしまうことが目に見えている。どうすれば安心できる医療体制を未来へと繋げていくことが出来るだろうか。そう考える中、見つけたのが医療マネジメントだった。

課題に向き合っていくためには、いかに質を落とすことなくより効率的に医療を提供できるかが鍵となってくる。つまり、より一層、それらを実現するためのマネジメントを企画・実践できる人材が必要になるということだ。しかし、従来の医療専門職の教育において医療体制や病院経営は重視されておらず、ましてや、医師、看護師、薬剤師、…と各専門職がそれぞれ独立したプログラムの中で養成されたがために、同じ医療の専門職の中でも視点を共有できないという問題がある。「医療」だけにこだわらず、経営や教育など幅広い領域の専門家がそれぞれの視点から関わっていくことが必然であるといえる。逆に言えば、医療を学ぶ私たちも知識の深さのみにとらわれず、その幅広さにも目を向けなければならないのだと気づいた。

医療体制は想像以上に複雑だ。思いもよらない点で様々な社会問題と結びついている。知識、経験が共に浅い私は、医療体制の課題やその解決策について曖昧で薄っぺらな思考しかできない。しかし、その課題意識を持ち続け、いずれは課題解決へと繋がる医療マネジメントを行える自分に成長したい。皆が安心できる医療を未来へと繋ぐために尽力する。それが私の目標だ。

AI をマネジメントする

東京科学大学 理学院 物理学系 修士 2年 大野 昴

昨今、生成AI 技術の急速な発展によって、その存在は瞬く間に身近なものになった。これからやってくる未来の社会では、AI が重要な役割を担ってくることは確実である。そんな社会では、人間がAI をマネジメントする能力こそが肝心になってくると私は考えている。

現在、私は大学院で物理学の研究を行うときにも生成AI を活用している。私が研究している内容では、コンピューターによる数値計算が補助的に必要になるが、研究を効率良く進めるためには簡単に済ませなければいけなかった。しかし、数値計算プログラムの習得は時間のかかるものであり、一から勉強して必要なコードを書いていたら本来の物理の研究に集中することができない。そこで、コードを書くのはAI に任せ、出力されたコードを自分で確認してから実際に計算で用いることにした。こうして研究プロセスの一部にAIを導入することで、かかる時間を遥かに短縮することができた。もちろん、生成AI が出力する結果は正しいものとは限らないので自分で逐次確認をする必要はあるが、それでも何もないところから書くよりは効率的になった。

このように、AI の強みと弱みを理解し、目標達成のための一つの手段として利用すれば、それは非常に強力なツールになる。ただし、肝心なのはAI をマネジメントの対象として使うことであり、決してAI にマネジメントされないことである。先ほどの例でいえば、もしもAI に研究の方針を指南してもらい、その通りに従っていたとすれば、AI にマネジメントされた研究者になってしまうところだった。科学研究は、手法こそ合理性を最重要視したものであるが、進む方向は人間の好奇心や社会の要請に応じたものでなければいけない。科学研究の最前線は社会の行く先を示すものであるため、AI に任せるわけにはいかない。

つまるところ、どれだけ未来になってもその社会の主役は人間である。そうであり続けるためには、AI にマネジメントされるのではなく、AI を正しくマネジメントすることが肝心である。そうすれば、科学研究を始めとする様々な場面でこれまで得られなかったような成果が得られ、人間性を担保しながらも魅力ある未来を実現することができるだろう。