特集 これからの社会とCM ( 第10 回) 山田 辰雄氏

特集

これからの社会とCM(第10回)

双方合意で契約変更条件の明確化を
第三次・担い手3法とCM ② 建設業法改正に伴うゼネコンの対応

鹿島建設株式会社 建築管理本部建築工務部 専任部長 山田 辰雄

ポイント 1 建設業界の環境の劇的変化

ポイント 2 契約条件の明確化とスライド条項の整理

建設業を取り巻く環境

 昨今建設業に従事する技能者数は減少の一途をたどっている。平成9年の建設業就業者数685万人をピークに令和6年には477万人となり、うち技能者は300万人にまで落ち込んでいる。最近日建連が発表した「建設業の長期ビジョン2.0」によれば、2035年には技能者が129万人不足すると予想されている。並行して、就業者の高齢化も進行しており、建設業は「若手が少なく高齢者が多い」産業の典型例となっている。  

 これらの状況に歯止めをかけるには、賃金や年間労働日数などの就業条件を向上させ、他産業と比べて「より良い」条件を提示することで、次代の担い手を確保することが急務である。こういった背景を踏まえ、建設業法をはじめとする担い手3法が改正され、建設業としても適切な対応を求められている。

建設物価の高騰と労働時間の厳守

 昨今の物価上昇は異常ともいえる。数カ月前に作成した見積が既に適切な単価を反映していないケースが多発している。業界規模の縮小に対し建設投資は増加傾向にあり、需要が供給を大きく上回る状況である。そのため、仕事を受注したくても体制が整わず、プロジェクトの延期や中止が報道される例も増加している。このような状況下では、ゼネコン側としてもより適切な条件の案件を優先して選別し受注する傾向が不可避となる。これは原発注者と元請の間においての話だけではなく、元請と協力会社との間についても同様である。つまり、ゼネコンも「選別」される立場であると言える。  

 さらに、令和6年4月からの労働基準法改正により、「時間外労働の上限規制」が強化された。建設業界では週休二日の定着が労働時間遵守の大前提とされ日建連では「適正工期確保宣言」を発出し、契約時には4週8閉所・週40時間労働を基本とした工程に基づく見積を作成し、発注者の理解を得るべく十分な説明を徹底することを表明した。加えて、猛暑日は作業不能日としてカウントすべきとの議論も浮上してきており、設定工期が従来よりも長期化する傾向となっている。

 このように適切な価格と工期について、発注者と受注者が対等な関係で合意形成を行った上で契約し、プロジェクトを推進していくことが今後のあるべき姿であると考える。従来のように未確定部分のある契約図でも一旦契約すれば一切の増減を認めない、工程が逼迫した場合に「休まず」働いて間に合わせる、といった対応はもはや法違反である。

 「安い」「早い」で競ってきた建設業の認識を大きく転換すべき時に来ていることを、建設業に携わる全関係者は肝銘する必要があろう。

業法改正の概要

建設業法改正の主なポイントは以下の通りである。

1.労働者の処遇改善

  • 労働者の処遇確保を建設業者に努力義務化
  • 標準労務費の勧告
  • 適正な労務費等の確保と行き渡り
  • 原価割れ契約の禁止を受注者にも導入

2.資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止

  • 契約前のルール
    ・受注者による資材高騰など「おそれ情報」の提供義務化
    ・請負代金等の「変更方法」を契約書記載事項として明確化
  • 契約後のルール
    ・注文者は誠実に変更協議に応じる努力義務

3.働き方改革と生産性向上

  • 長時間労働の抑制
  • ICTを活用した生産性の向上
は令和7年12月施行、他は令和6年12月施行

 これらの各項目に対し、当社としても順次対応を検討しているが、今回はこの中から請負代金等の「変更方法」を契約書記載事項として明確化する取組について報告する。

  • 出典:国土交通省「改正建設業法に関する資料」より抜粋
  • 建設業就業者の推移

請負代金の「変更方法」についての取組

1.契約条件の明確化

契約に際しては先ず
・何を原点として契約したか
・原点からの変更の算定方法
について明確にする必要がある。

 契約については、設計図書に未確定な個所がある場合でも一旦仮の条件を設定し、原点を明確にすることが重要である。この原点に基づいた精算図・見積書を契約図書として取り込むことが求められる。

 また、見積価格の原点として、契約時を基準とするのか、精算見積時を基準とするのか等についても、事前に取り決めておくことが望ましい。

2.請負代金の変更方法の明確化

 請負代金の変更が生じた場合には、
・物価変動の算出時期と適用対象
・物価変動が生じた場合のリスク負担の方法
・物価変動算出の根拠
を事前に明確にする必要がある。

 弊社の場合、民間工事において以下のような取り組みを実施している。

・物価変動の算出時期と適用対象
 物価変動の算出をいつ、どの程度の頻度(年に一度、等)で行うか、またそれを適用する対象工事は何か(算出時点での残工事、等)を事前に契約書にて取り決める。当然、物価が下振れした場合には、減額措置も否定しない。

・物価変動が生じた場合のリスク負担の方法
 算出された変動分について、発注者・受注者で分担割合を決める。公共工事でよく採用されているスライド条項では、全体スライドで1.5%、単品・インフレスライドで1.0%を受注者負担とするのが一般的であるが、これに準じて民間契約でも負担割合を事前に決めておく必要がある。つまりスライド条項の民間版をきちんと契約に反映させることに留意する。

・物価変動算出の根拠
 基本的には「建設費指数」・「建設物価」・「公共工事設計労務単価」など公的な指標に基づき算定し、物価上昇率を定期的に算定する。また、直近では「日建設計標準建築費指数(NSBPI)」のような民間が算定した指数を上記に加え採用するケースも出てきている。
 ただし、実勢価格がそれらと乖離する場合には、メーカー等の「価格改定通知書」のほか、「複数社の見積等による実勢価格」を根拠とするなど、参照図書についても事前に取り決め、後々の協議が円滑に進むようにしておくことが望ましい。

0.原点の明確化
契約時の条件、見積単価の起算時期
1.物価変動の算出時期と適用対象
時期、頻度、対象工事
2.リスク負荷
物価変動の負担割合
3.物価変動算出の根拠
参照図書と算定の手順

CMへの期待

 今回の法改正により、契約条件の変更のルールがより厳格化された。条件の変更に伴うコスト・工期の変更について発注者・受注者ともその内容に妥当性について確認し、必要な変更手続きを取らなければならない。これらは事前に交わされたルールに基づき正しく遂行されなければならないが、受注者・発注者各々の言い分を技術的・専門的に吟味の上、お互いが無駄な作業や時間を費やすことなく 公平な立場で合理的・客観的に判断し、遅滞なくプロジェクトを運営していくことはコンストラクションマネージャーに今後より一層求められる職能であると思われる。