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特別対談さらなるCMの普及・発展 を目指して

̶̶日本コンストラクション・マネジメント協会(以下、日本CM協会)の創立20周年を記念して、建設業の育成・振興を担う国土交通省(以下、国交省)の青木由行不動産・建設経済局長に川原会長からお話をうかがいます。
令和2年(2020年)9月に国交省から従来のガイドラインから一歩踏み込んだ「地方公共団体におけるピュア型CM方式活用ガイドライン」が公表されました。このタイミングにお話をうかがうことで、CMがいっそう普及拡大し、発注者の支援につながればと考えております。
それではまず、川原会長からCM協会の説明をお願いいたします。

青木由行(あおき よしゆき)

青木由行 (あおき よしゆき)

国土交通省不動産・建設経済局長(2019年7月~)
1962年 山口県生まれ
1986年東京大学法学部卒、建設省採用
国土交通大臣官房付(兼)復興庁統括官付参事官、土地・建設産業
局建設業課長
総合政策局政策課長、道路局次長、大臣官房建設流通政策審議官、
都市局長
を歴任し、2019年7月より現職

川原秀仁(かわはら ひでひと)

川原秀仁 (かわはら ひでひと)

一般社団法人日本コンストラクション・マネジメント協会会長
(2020 年6月~)
1960年 佐賀県唐津市生まれ
1999年より実業で本格的CM業務に携わり、協会設立当初よりCM暫定資格者として協会活動に参画
2007年 協会理事就任、2019年 協会常務理事
『CMガイドブック第3版』(2017年、日本CM協会発行)編集長
2012年より ㈱山下PMC 代表取締役社長

司会 髙橋治光(日刊建設工業新聞社)

司会 髙橋治光
(日刊建設工業新聞社)

「地方公共団体におけるピュア型CM方式活用ガイドライン」公表までの経緯

川原

日本CM協会は2001年に創立され、2021年で20年を迎えます。創立以来、建設分野においてのCM方式の普及・発展、合わせて技術・制度の確立を目指して活動を続けてまいりました。創立当初は個人会員が主体でしたが、最近では団体会員も大変多くなり、CM専業会社はじめ、設計事務所やゼネコン、サブコン、専門工事会社、不動産会社、発注事業者......つまり発注者も受注者も、あるいはCMrも全ての立場の方々が参画する協会になりました。

CMを取り巻く環境は、米国からその仕組みが導入された1990年代当時と大分趣が変わってきました。とくに国交省が先行してやられた、2011年の東日本大震災の復興におけるURなどが採用したアットリスク型のCM方式は、迅速な回復支援策として大きな注目を集めました。さらに民間事業では、事業全体の合理性や効率性、プロセスの透明性・妥当性、説明責任の必然性が高くなり、大都市圏や大企業の間では、もはやCM採用は当たり前になっています。こうした背景から、国交省より2020年9月に「地方公共団体におけるピュア型CM方式活用ガイドライン」(以下、「ピュア型CM方式活用ガイドライン」)が公表されました。このガイドラインの取りまとめの経緯や位置づけ、概要についてご説明をお願いします。

青木

国交省がCM方式に取り組んで今回皆様のご協力もいただき、ガイドラインという形で、きちんと世の中にお示しすることができたことは、大変エポックメイキングなことだと思っています。私たちもCM方式にずっと取り組んでいますが、その道のりは決して平坦なものではありませんでした。

国交省におけるCM方式に関する取り組みは、平成5年(1993年)から始まりました。当初はおそらく発注者支援というよりも、専門工事業者の方たちが直接受注する方法を追求できないかという動機もあったと聞いています。ところが、私たちの取り組みと世の中のニーズ、業界の具体的な動きがうまく回っていなかった時期がありました。その後、発注者支援というコンセプトに立て直して検討を再開し、平成14年(2002年)にCM方式に関する初めてのガイドラインとして「CM方式活用ガイドライン」を取りまとめました。

東日本大震災の直後、たくさんの高台移転の工事がプランニングされました。それは地元の地方公共団体にとっても経験のないことであり、早く被災者の方の生活を再建するためにもCM方式を導入することになりました。まずは現場のニーズにいかに対応するかが目の前の課題としてあり、コスト+フィー、地元企業の優先活用、オープンブック、バリューエンジニアリング(VE)など、あまり形にとらわれずに必要なことをどんどん組み込んでいきました。また当時の業界の皆さんとも相談しながら進める中で、ピュア型よりも、アットリスク型のほうが取り組みやすいということがあり、まずはアットリスク型でスタートしました。一方で、気仙沼をはじめいくつかの自治体では、ピュア型のCMも取り入れていました。それまでいろいろなところでCM方式について議論してきたことを、被災地のニーズに合わせてやらざるを得ない状況になり、私どもにおいても大きな転機になりました。

また、その頃から地方公共団体の発注体制が非常に脆弱になり、技術者不足が表出してきました。とくに深刻なのが建築部門であり、公共の建築工事では土木工事に比べて発注の数が少なく、さらに病院や学校の工事では、発注部局がまた異なるため、マンパワーが不足しているうえに分散されていて、ノウハウのある人が少なくなってしまいました。一方で、老朽化してきた学校や病院の耐震化の要請も増加しています。このような背景から、小規模な自治体をはじめとした地方の公共発注者がCM方式を利用しやすい環境整備に向けて取り組みを開始しました。東日本大震災復興事業におけるCM方式の活用実績を活かすことができないかと考えながら、制度の問題点や課題、CM制度導入に当たってある程度定式化しておいたほうがいいことなどを、皆様にもご協力を賜って議論を重ね、これが今回の「ピュア型CM方式活用ガイドライン」に結実しました。

今回は具体的な発注の仕組みを作り込むことを念頭に置きましたから、CM業務報酬の考え方やCMRの選定方法など、極めて実務的で実践型の内容です。なんとか現場で役立てたいという思いで作りましたので、CM業務委託契約約款(案)も示していますし、地方公共団体の皆様が個別にスムーズにCM業務を発注できる内容を盛り込めたと思っています。

川原

私自身も東北・女川町高台移転等でピュア型のCMに携わり、全体施設をどのように扱っていくか、お手伝いさせていただいていました。そこではピュア型、アットリスク型を含めていろいろなタイプのCMが実験的に行われて、そこで収斂された世界が、やがて公共工事品確法改正につながっていったと思っています。

このたびの「ピュア型CM方式活用ガイドライン」の策定では、私たち日本CM協会も検討会に参加させていただき、いろいろな意見や要望を出させていただきました。建築や土木工事の違いやピュア型CM方式の基本的枠組み、CMrの業務報酬の積算の考え方などが明記されて、官民問わず発注者がCMを導入する際の課題が整理できたと思っています。

青木

今、建築と土木の違いについてお話しされましたが、この点は大変重要で、建設工事について建築と土木は同じ土俵で議論されがちですが、実際は全く別の世界といっていいほどであり、それぞれのプレイヤーが持っている役割やノウハウも全然違います。また海外と日本でも、プレイヤーのバックグラウンドが積算体系1つをとっても全然違います。ですからやはりそこをしっかり区別することは、議論を混乱させないためにも大変大事なポイントだと私は思っています。

ピュア型CMに絞ったガイドライン

川原

国交省では「ピュア型CM方式活用ガイドライン」をこれからどのように地方公共団体に普及させていく方針でいらっしゃるのでしょうか、また今回のガイドラインをピュア型CMに絞られた経緯も教えていただきたいと思います。

青木

アットリスク型CM方式はピュア型CM方式で行うマネジメント業務に加え、施工に関するリスクをCMRが負う仕組みですが、これまでの日本型の発注者と元請の施工会社の関係性において、施工会社が行ってきたマネジメント業務に対して適切なフィーを支払う仕組みともいえます。そういう意味では、アットリスク型のCM方式をやっていくための素地が日本にすでにあったともいえますが、ピュア型CM方式にはそういったものがありませんでしたので、ガイドラインを整備する必要がありました。それが、ガイドラインをピュア型CM方式に絞った理由の1つです。その他にも、ピュア型CM方式は、いわゆる発注者体制の補完策の1つとなり、多くの発注者が抱える事業の実施体制の間題に対して有効ですし、現在公共事業におけるCM方式の活用事例の大半は、このピュア型CM方式になっていることもあります。

ガイドラインをもとに、実際に活用していただくことが大事ですので、これまでも実施してきた地方公共団体に対して相談に応じる体制の中、モデル事業でもこのガイドラインを使っていただけますし、都道府県の公共工事契約業務連絡協議会などで知識をシェアしていくこともできるのではないかと考えています。発注者にとってCM業務に類するような仕事は滅多にありませんから、同じ組織の中でCMの有用性を受け継いでいくことは大変難しいと思います。もちろん事業によって同じようにいかない場合もありますが、大枠は共通していますので、ガイドラインとともにCM方式が展開していけるのではないでしょうか。とにかく現場を応援することが重要だと思っています。

CMの拡大に向けて

川原

日本CM協会では、認定CM資格の試験や登録の実施、現在国内唯一のCM教本である『CMガイドブック』の発行やCMスクールあるいはフォーラムやセミナーなどを開催して、CM普及に資するように活動しています。併せて9年前からCMの優れた案件を表彰する「CM選奨」制度も実施していまして、近年では国内外から多くの応募があり、高度化した事業においてCMが採用されていることが見られ、裾野の拡がりを感じています。

国交省としては、今後どのようにして公共事業も含めて、CM方式を世の中に普及拡大するための施策を取られていく予定でしょうか。

青木

やはりCM方式が現場の課題にいかに役立つかということが原点です。地方公共団体の課題意識はいろいろあると思いますが、例えばその中の1つにマンパワー不足がありますし、早く作らなければならないというニーズもあるでしょうし、あるいは複合的な機能みたいなものが欲しかったりもするでしょう。地方公共団体からすると、どういうものをつくるかの提案そのものが欲しい場合もあるかもしれませんし、それには時間がある場合とない場合など、さまざまな条件もあります。

そこで、国交省ではCM方式の普及拡大に向けて、平成26年度から地方自治体を対象としたモデル事業(平成26~29年度の多様な入札契約方式モデル事業、平成30年度からの地方の入札契約改善推進事業)に取り組んでいます。モデル事業では、どのようなニーズがあるところに、どのソリューションをはめ込むのが良いか、タイプ別に、なるべく似たようなニーズを持っている人たちが、モデル事業の実施の状況を見て、わかりやすく理解できるように工夫をしています。CM方式を導入する際には、専門的な知見を持っている人、業務経験を持っている人の存在が、やはりとても大事になってきます。地方公共団体でそういった人材を常に抱えておくことは難しいので、それをカバーするためにCMの導入検討に始まり、CM業務発注に際しての入札契約手続きなど、地方自治体がCMを導入するまでの一連のプロセスを専門家を派遣して支援しており、それも地方公共団体がCMを使う際には1つの柱だと思っています。

また、良い事例を認識していただくためにモデル事業を通じてノウハウや事例を蓄積し、公共発注者へ向けて広く提供していきたいと考えています。これは単にでき上がったものを見ていただくだけではなく、考え方やプロセスまでをぜひ知っていただきたいですし、こういった取り組みをこれからもやっていきたいと思っています。

多様な発注方式とCM方式は一体のもの

川原

平成26年(2014年)に公共工事品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律)が改正されて、その中でも発注者側の支援策の1つとしてCM方式がまず位置づけられました。それからデザインビルド方式やECI方式などの多様な発注方式が、公共工事や公共プロジェクトにおいても正式な形で採用できるようになりました。そしてさらに令和元年(2019年)の品確法改正では、災害への緊急対策の強化や生産性の向上、あるいは就業者不足による働き方改革の対応、発注者の体制まで、整備も含めて、さらに強化されました。公共工事・公共プロジェクトが先行モデルとなって健全な建設産業の継続あるいは生産性向上を実現していくために、多様な発注方式の中からそのプロジェクトに最も適合した発注方式を選定して、それを首尾よく推進していくことが、今後重要なテーマになっていくと思われます。この多様な発注方式と、発注者側に立つピュア型のCM方式との親和性についてどのように考えていらっしゃいますか。

青木

公共工事品確法の改正(平成26年(2014年))以降、多様な発注方式(入札契約方式)がさまざまな事業で活用されてきました。多様な発注方式とCM方式はほとんどシームレスで一体となっていると思います。

公共工事の入札方式が指名競争入札から一般競争入札を中心とした方式に移行した後、品質が安かろう悪かろうではいけない、総合評価を導入して品質を確保するというコンセプトで、最初の品確法(平成17年(2005年))が生まれました。その後、建設業は厳しい冬の時代になり、どんどん需要量が減って、ダンピングや談合なども起きてしまい、やはり公共工事の品質を確保するためには、担い手をきちんと中長期的に確保することが大事だと認識されました。それには事業者はもちろん、発注者にもその責務があるわけです。なぜなら品質を確保することが究極の目的であり、現場の条件に合わない入札契約をしてしまうと、思わぬ赤字工事で会社が追いつめられたり、恒常的にダンピングが起きやすいような仕組みになってしまう例が実態としてありました。

品確法改正(平成26年(2014年))により、CM方式や多様な発注方式の位置付けが明確になりました。契約の仕方を工事に合わせて工夫することによって、担い手の方にきちんとした処遇ができるような環境をつくることは、それぞれの事業者にとっては適切な利潤を確保することにもつながります。もともと品確法は土木が念頭に置かれていたかもしれませんが、建築にも応用できるものになってきました。

2016年の熊本地震で、57号の北バイパスのトンネルを貫きましたが、とにかくスピード最重視という発注条件の中で、ECI方式を採用し、フロントローディングに取り組みました。東日本大震災以来、多様な発注方式を国交省でもっと発展させようと、学識者と実務家と行政でずっと議論を進めていたところに熊本地震が起きて、ともかく一刻も早く復旧すべきとなって、この契約方式でいくことになりました。これは品確法以来、法律の位置づけを得て、行政、業界を上げていろいろな議論をしてきたからこそできたと思いますし、ありがたいことに今、建築も含めてCM方式を採用しようというところが大きく広がっています。今まで業界の皆様と一緒にいろいろなことをやってきたことで、ある種の成果が出てきているのかと思います。当然そのような中でCMが1つの武器になっていることは間違いないと感じています。

川原

川原 多様な発注方式を選定・推進することと、発注者の支援策としてのピュア型CMを採用することは、近い将来セットとして捉えられていくと私どもも考えています。品確法改正やガイドラインの公表はその出発点になったという気がしています。

デジタル社会でさらに重要視されるコミュニケーション

川原

最後の質問ですが、現在、プラットフォームに代表されるようなデジタル・ビジネスが、全産業に多大な影響を及ぼしていて、桁違いの効率性や合理性が当然のように要求されようとしています。また建設産業への影響も例外ではなく、建設生産におけるサプライチェーン自体、企画から始まって、発注→設計→工事→運営までの一連の供給の流れのなかで、その入口(ポータル)から出口(デリバリー)までを極端に縮めようという動きが水面下で進行しています。そのようななかで、今後、建設生産を取り巻くすべての事象におけるデジタルとリアルビジネス(実際に今までやってきたビジネス)の統合的取り組みについて、今後国交省ではどのようにお考えでしょうか。例えば、BIMに限らず各契約主体間の履行データの受け渡しの問題や、竣工図書や竣工データを今までは紙ベースで提出していたものをデジタルだけでも許容されるのか、オンライン会議の許容、自動設計の許容、あるいはこれらに向けた各種仕様書の改定など、こういったものに向けて、どのようにお考えになっていますか。

青木

今、政府全体の動きとしてデジタル庁設立に象徴されるようにいろいろなオンライン化がもっと進むという機運が出ています。それも一部で進めるのか、一斉に進められるのかによって全く変わってきますが、皆が一斉に同じ規格でやることにものすごく価値があるように思います。デファクトスタンダードにどう取り組むかがビジネスの世界で非常に重要だといわれますが、やはり建設業の世界でも、そういったスタンダードのようなものをつくりやすくする環境づくりがこれから必要ではないかと考えられます。

建設業に限らないかもしれませんが、これだけ技術が進歩し、大きく環境が変わり、さらにこれから生産年齢人口が減っていくなかで、生産性を向上させるためには、イノベーションが大変重要になってきます。イノベーションといったときに、テクノロジーの話がわかりやすいので前面に出ますが、そこを支える意味でも、入札契約やあるいは実際の設計から施工の一連の流れのなかで、どういうプレイヤーがどういうタイミングで入り、どういう法律が関わって、そして現場でどういうタイミングでどういう協議をしていくかがますます重要になってきます。多くの建設工事は一品生産ですから、大なり小なり必ず手戻りがあります。それを防ぐためにはいつ、どのようなタイミングでどういう取り決めの下で協議をしたらうまくいくか、入札・契約方式を含めたシステムの進化を進めることも、大きなイノベーションをもたらしていくと思います。

それから生産年齢人口が減ることに伴う担い手不足という積年の課題がありますから、そのなかで私たちが昭和・平成の時代に築き上げたいろいろな建設業に関するシステムが、万が一イノベーションを阻害している原因になっているとすれば、それをなるべく早く察知して、現場に支障が出る前に除去する努力をしなければなりません。

いずれにしても、いろいろなことをスムーズに行っていく際に、やはり大事なのは現場とのコミュニケーション・会話です。ですから今まで以上にわれわれ国交省と現場、つまり一生懸命やってくださっているCM協会の皆さん、関係業界の方々、あるいは他の発注者の皆さんとのコニュケーションの密度を、頻度・質ともに上げていくことができればいいと思います。また、今回ガイドラインを出して私たちが世の中に発信したことが、コミュニケーションの質と量を上げる1つの契機になればいいと期待しているところです。

川原

それは素晴らしい趣旨であると私たちも感じています。CMをやるからには建設産業の進化に基づかなければなりません。やはり発注者、受注者、そして社会も幸せにする「三方良し」を基本ベースにしてしっかり浸透していかないとCMは生き延びられませんし、日本中に拡大していかないでしょう。ですからそういう精神を必ず守って、国交省をはじめいろいろなところと協力しながらCMを普及させ、さらにいい形で発展させたいと思いますので、今後とも緊密な連携とご支援をよろしくお願い申し上げます。貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

̶̶青木局長、川原会長、ありがとうございました。

(2020年11月19日 国土交通省にて収録) ※敬称略