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巻頭言

日本型CMの進化とグローバル・スタンダードの融合 ―3委員会の活動を通じて―

常務理事 Turner & Townsend 株式会社 
代表取締役 
梶浦 久尚

【はじめに】
日本CM協会において国内、海外、デジタルの3つの調査委員会を統括する常務理事として、また日々ターナー&タウンゼントの代表として実務の最前線に立つ中で、今ほどCM(コンストラクション・マネジメント)の真価が問われている時期はないと感じております。建設コストの高騰、働き方改革に伴うリソース不足、そして急速なDXの進展。我々を取り巻く環境は激変していますが、これは同時に、透明性の高いマネジメントを標榜するCMが、建設産業の主役へと躍り出る大きな好機でもあります。

【3委員会の有機的連携がもたらす価値】
 私が担当する3つの委員会は、現在、個別に活動しておりますが、今後は相互に深く関連し合い、より付加価値の高い調査研究を行うことを目標としております。現在の「国内調査委員会」では、日本のCMの普及率を市場調査を通じて観測しています。年次経過を確認することで、市場の変化をとらえつつ、日本独自の商習慣や法規制に即したCMの普及と深化を追求していきたいと思います。一方で「海外調査委員会」は、日本と異なる商習慣やプロジェクト運営手法を調査し、日本のCMのグローバル・スタンダードへの進化を目的にしています。これは決して日本の慣習を否定するものではありません。むしろ、外資系クライアントが日本市場に求める「説明責任」や「ガバナンス」といった視点を、いかに日本の現場へ適応させ、すべてのクライアントに対し、日本のCMが満足のいくサービスを提供できるための「橋渡し」の役割を担っています。そして、この両者を繋ぐ強力なエンジンとなりうるのが「デジタル調査委員会」です。特に今年からはAIの活用に関し調査をすることで、単なる効率化のツールにとどまらず、大型案件の複雑な工程やコスト構造を可視化し、海外基準のデータ管理を可能にする、いわば「共通言語」としての役割をどこまで担えるのかを今後しっかりと考えていきたいと考えています。これら3つの視点を有機的に統合することで、日本型CMは次なるフェーズへと進化できると思っています。

【プロフェッショナルとしての矜持】
 CMマネジャーに求められるのは、単なる調整役としての動きではありません。設計や施工の細部に没入しすぎるのではなく、プロジェクト全体の「経営」を司る俯瞰的な視点こそが重要です。私自身、英国に本社を置く企業の代表として日々痛感しているのは、クライアントが真に求めているのは「専門家としての確固たる提言」であるということです。 そしてその提言はデータや経験から生まれてくるものであり、日本の労働法や独自の技術力を背景に持ちつつ、グローバルに通用する「書面によるエビデンス管理」や「リスクの事前察知」を徹底することが重要だと考えます。この「守り」と「攻め」のマネジメントを高い次元で両立させることこそが、現在の日本市場で最も必要とされているプロフェッショナリズムです。

【結びに代えて】
 我々CM協会の使命は、会員各社が切磋琢磨し、業界全体のレベルを底上げすることにあります。次世代を担う若手CM・PMたちが、この職能に誇りを感じ、自らのキャリアを世界基準で描けるような土壌を築いていきたいと考えております。新卒育成からデジタルシフト、そしてグローバル展開まで、協会活動と実務の両輪を回しながら、皆様と共に建設産業の明るい未来を切り拓いていく所存です。

特集

これからの社会とCM(第10回)

双方合意で契約変更条件の明確化を
第三次・担い手3法とCM ② 建設業法改正に伴うゼネコンの対応

鹿島建設株式会社 建築管理本部建築工務部 専任部長 山田 辰雄

ポイント 1 建設業界の環境の劇的変化

ポイント 2 契約条件の明確化とスライド条項の整理

建設業を取り巻く環境

 昨今建設業に従事する技能者数は減少の一途をたどっている。平成9年の建設業就業者数685万人をピークに令和6年には477万人となり、うち技能者は300万人にまで落ち込んでいる。最近日建連が発表した「建設業の長期ビジョン2.0」によれば、2035年には技能者が129万人不足すると予想されている。並行して、就業者の高齢化も進行しており、建設業は「若手が少なく高齢者が多い」産業の典型例となっている。  

 これらの状況に歯止めをかけるには、賃金や年間労働日数などの就業条件を向上させ、他産業と比べて「より良い」条件を提示することで、次代の担い手を確保することが急務である。こういった背景を踏まえ、建設業法をはじめとする担い手3法が改正され、建設業としても適切な対応を求められている。

建設物価の高騰と労働時間の厳守

 昨今の物価上昇は異常ともいえる。数カ月前に作成した見積が既に適切な単価を反映していないケースが多発している。業界規模の縮小に対し建設投資は増加傾向にあり、需要が供給を大きく上回る状況である。そのため、仕事を受注したくても体制が整わず、プロジェクトの延期や中止が報道される例も増加している。このような状況下では、ゼネコン側としてもより適切な条件の案件を優先して選別し受注する傾向が不可避となる。これは原発注者と元請の間においての話だけではなく、元請と協力会社との間についても同様である。つまり、ゼネコンも「選別」される立場であると言える。  

 さらに、令和6年4月からの労働基準法改正により、「時間外労働の上限規制」が強化された。建設業界では週休二日の定着が労働時間遵守の大前提とされ日建連では「適正工期確保宣言」を発出し、契約時には4週8閉所・週40時間労働を基本とした工程に基づく見積を作成し、発注者の理解を得るべく十分な説明を徹底することを表明した。加えて、猛暑日は作業不能日としてカウントすべきとの議論も浮上してきており、設定工期が従来よりも長期化する傾向となっている。

 このように適切な価格と工期について、発注者と受注者が対等な関係で合意形成を行った上で契約し、プロジェクトを推進していくことが今後のあるべき姿であると考える。従来のように未確定部分のある契約図でも一旦契約すれば一切の増減を認めない、工程が逼迫した場合に「休まず」働いて間に合わせる、といった対応はもはや法違反である。

 「安い」「早い」で競ってきた建設業の認識を大きく転換すべき時に来ていることを、建設業に携わる全関係者は肝銘する必要があろう。

業法改正の概要

建設業法改正の主なポイントは以下の通りである。

1.労働者の処遇改善

  • 労働者の処遇確保を建設業者に努力義務化
  • 標準労務費の勧告
  • 適正な労務費等の確保と行き渡り
  • 原価割れ契約の禁止を受注者にも導入

2.資材高騰に伴う労務費へのしわ寄せ防止

  • 契約前のルール
    ・受注者による資材高騰など「おそれ情報」の提供義務化
    ・請負代金等の「変更方法」を契約書記載事項として明確化
  • 契約後のルール
    ・注文者は誠実に変更協議に応じる努力義務

3.働き方改革と生産性向上

  • 長時間労働の抑制
  • ICTを活用した生産性の向上
は令和7年12月施行、他は令和6年12月施行

 これらの各項目に対し、当社としても順次対応を検討しているが、今回はこの中から請負代金等の「変更方法」を契約書記載事項として明確化する取組について報告する。

  • 出典:国土交通省「改正建設業法に関する資料」より抜粋
  • 建設業就業者の推移

請負代金の「変更方法」についての取組

1.契約条件の明確化

契約に際しては先ず
・何を原点として契約したか
・原点からの変更の算定方法
について明確にする必要がある。

 契約については、設計図書に未確定な個所がある場合でも一旦仮の条件を設定し、原点を明確にすることが重要である。この原点に基づいた精算図・見積書を契約図書として取り込むことが求められる。

 また、見積価格の原点として、契約時を基準とするのか、精算見積時を基準とするのか等についても、事前に取り決めておくことが望ましい。

2.請負代金の変更方法の明確化

 請負代金の変更が生じた場合には、
・物価変動の算出時期と適用対象
・物価変動が生じた場合のリスク負担の方法
・物価変動算出の根拠
を事前に明確にする必要がある。

 弊社の場合、民間工事において以下のような取り組みを実施している。

・物価変動の算出時期と適用対象
 物価変動の算出をいつ、どの程度の頻度(年に一度、等)で行うか、またそれを適用する対象工事は何か(算出時点での残工事、等)を事前に契約書にて取り決める。当然、物価が下振れした場合には、減額措置も否定しない。

・物価変動が生じた場合のリスク負担の方法
 算出された変動分について、発注者・受注者で分担割合を決める。公共工事でよく採用されているスライド条項では、全体スライドで1.5%、単品・インフレスライドで1.0%を受注者負担とするのが一般的であるが、これに準じて民間契約でも負担割合を事前に決めておく必要がある。つまりスライド条項の民間版をきちんと契約に反映させることに留意する。

・物価変動算出の根拠
 基本的には「建設費指数」・「建設物価」・「公共工事設計労務単価」など公的な指標に基づき算定し、物価上昇率を定期的に算定する。また、直近では「日建設計標準建築費指数(NSBPI)」のような民間が算定した指数を上記に加え採用するケースも出てきている。
 ただし、実勢価格がそれらと乖離する場合には、メーカー等の「価格改定通知書」のほか、「複数社の見積等による実勢価格」を根拠とするなど、参照図書についても事前に取り決め、後々の協議が円滑に進むようにしておくことが望ましい。

0.原点の明確化
契約時の条件、見積単価の起算時期
1.物価変動の算出時期と適用対象
時期、頻度、対象工事
2.リスク負荷
物価変動の負担割合
3.物価変動算出の根拠
参照図書と算定の手順

CMへの期待

 今回の法改正により、契約条件の変更のルールがより厳格化された。条件の変更に伴うコスト・工期の変更について発注者・受注者ともその内容に妥当性について確認し、必要な変更手続きを取らなければならない。これらは事前に交わされたルールに基づき正しく遂行されなければならないが、受注者・発注者各々の言い分を技術的・専門的に吟味の上、お互いが無駄な作業や時間を費やすことなく 公平な立場で合理的・客観的に判断し、遅滞なくプロジェクトを運営していくことはコンストラクションマネージャーに今後より一層求められる職能であると思われる。

特集

これからの社会とCM(第10回)

第三次・担い手3法とCM ②

前号に続き、2025年度テーマ「第三次・担い手3法とCM」を特集します。今号(81号)では、前号(80号)の国土交通省インタビューを受けて、実際に担い手として現場で工事にあたる施工者(ゼネコン)とCMr(CM会社)の2者の責任者の方にお話をうかがい、現場の状況を深掘りしたいと考えています。施工者(ゼネコン)については、株式会社安藤・間 首都圏建築支店 常務執行役員支店長の酒井喜壽様、CMr(CM会社)については、株式会社山下PMC取締役専務執行役員の村田達志様にお話をうかがいます。さらに次号82号では国土交通省髙橋様、安藤・間酒井様、山下PMC村田様を一堂に会し企画特集「第三次・担い手3法とCM」を締めくくりたいと考えます。

(『CMAJ』編集委員 宇津橋喜禎、宇津橋隆啓)

株式会社山下PMC 村田達志氏インタビュー

株式会社山下PMC 取締役 専務執行役員 村田 達志 (むらた たつし)
  • 2002(平成14)年 (株)山下設計 入社
               (株)山下ピー・エム・コンサルタンツ(現山下PMC)出向
  • 2009(平成21)年 同 退社
  • 2010(平成22)年 (株)山下PMC 入社
  • 2018(平成30)年 同 執行役員
  • 2020(令和2 )年 同 取締役・執行役員
  • 2021(令和3 )年 同 取締役・常務執行役員
  • 2023(令和5 )年 現職
日時
2025年10月23日(木) 10:00~11:30
株式会社山下PMC本社
ゲスト
村田達志((株)山下PMC 取締役 専務執行役員)
出席者
宇津橋喜禎(日本CM協会常務理事『CMAJ』編集委員/(株)建設エンジニアリング/進行・聞き手)
北野隆啓(日本CM協会『CMAJ』編集委員/(株)山下PMC)

国内で手がけるPM/CM業務

村田氏村田氏

宇津橋最初に、山下PMC様はPM/CM業務において国内外を問わず、大小さまざまな建設プロジェクトに取り組んでいらっしゃいますが、特に国内の建設プロジェクトへの取り組み状況について教えていただけますでしょうか。

村田国内のCM業務売上の内訳としては民間工事が8~9割、公共工事が1~2割程度と、概ね建築投資額の官民比率と同程度となっています。基本的に建築工事を主体としていて、土木工事に関しては建築に付随するものに対応しています。

 対応エリアは北海道から沖縄までの国内全域、東南アジアやアメリカなどの海外案件も少しずつ増えています。用途としては、住宅以外のほぼ全ての用途、スポーツ施設、ホテル、データセンター、メディア、製造・研究開発、オフィス、物流、教育、医療等に対応していますが、売上比率の高いものとしては、スポーツ関連施設、ホテル、製造・研究施設の3用途であり、最近はデータセンター等が増えています。カテゴリーとしては国内のPM/CM事業が根幹ですが、グローバル事業やリニューアル・コンバージョン等のストック事業、まちづくりや地方創生といった都市創造事業等にも力を入れていこうとしています。

 また、b-platformという施設管理のデジタルサービスなども5年ほど前から始めており、徐々に官民発注者への導入が広がってきている状況です。

「第三次・担い手3法」施行後の公共建築工事の状況

宇津橋2024(令和6)年6月から、「改正公共工事品質確保促進法(以下、公共工事品確法)」「改正公共工事入策契約適正化法(以下、入契法)」「改正建設業法(以下、建設業法)」の3つが改正され、「第三次・担い手3法」としてスタートしました。第三次というのは一次、二次という歴史の中で、今回の2024年のものが第三次にあたります。「担い手の確保」や「生産性向上」「地域対応力の強化」が国が発信している柱であり、対策が求められています。山下PMC様として、担当されている建設プロジェクトでの状況について、まず公共建築プロジェクトからお話しいただけますでしょうか。

村田官民を問わず、「第三次・担い手3法」の背景と関連している物価上昇と労務の逼迫状況については各案件で慎重な対応が必要になっています。市況を鑑みた予算設定、工期設定、発注方式の選定に関して、常に留意しながらプロジェクトを進めている状況です。

 公共事業には、基本構想から基本計画まで、初期の計画段階の時間が比較的長いという特性があります。そのため民間に比べて最初に決めた予算計画が合わなくなるケースが必然的に多くなります。その中で、最初に決めたことだからと予算見直し検討を省いてしまうと後にしわ寄せが来たり、最悪の場合、事業が止まってしまうことも起こりかねません。そのため、CMrが設計フェーズなどプロジェクトの途中段階から参画する場合は、その時点での市況に応じたコスト検証を行い、コストや工期に無理がある場合は予算や計画の見直しを提言しています。

宇津橋宇津橋

 公共事業には物価スライドの適用ルールが設けられていますが、基本は設計施工分離発注を前提とした施工段階に入ってからのスライド適用ルールですから、デザインビルド方式やECI方式において、設計段階からの物価変動に対してのルールをどうつくっていくのかは、個別の案件ごとに発注者と協議しながら進めています。

インタビュー風景インタビュー風景

 今回の「第三次・担い手3法」では、契約後に資材高騰が顕在化した場合、公共発注者は受注者側の協議要請に誠実に応じる義務が課されています。CMrとしては、そのような協議要請に対する発注者側の対応を支援しています。受注者側のコスト増要請を100%受け入れられるわけではありませんが、客観的に見て妥当性のある要請である場合は、発注者とも相談し予算見直しや設計の見直し等の検討を進めます。ただ、その際に受注者側の根拠資料が整っていないケースもあるため、受注者に対して、発注者側が理解・納得できる客観的な情報開示をCMrからもお願いしています。

 もう1つの大きな課題としては「担い手確保」です。公共事業では入札時に初めて参加要件、評価基準が開示される事例が多いですが、担い手不足の状況下では短期間での入札準備が間に合わず、応札意欲の減退につながることもあります。PFI事業では応札前の準備期間を確保しやすいように事前のサウンディングを実施しますが、公共事業においても同様の手法を促す、等の工夫をしています。民間プロジェクトの場合は候補として考えている数社と対話すればいいのですが、公共の場合は、公平性をもたせながらサウンディングを進めることを発注者に促すようにしています。

宇津橋公共プロジェクトにおいてのPM/CM業務では基本計画から関わられるケースが多いのでしょうか。

村田そうですね。基本計画段階から関わるケースが多いですね。

宇津橋より早い段階から関わることによって、発注者とのコミュニケーションの機会も多くなり、法律の話も、歩み寄って話し合いやすいということですね。

村田法改正含め、さまざまなリスクや業界動向を早めに伝えられるメリットはあると思います。今は発注者側もちゃんと受けてくれる工事会社がいるかどうか、不安に思っている場合も多く、そうした課題解決を期待してCMrに基本計画段階から発注しているケースもあると思います。

法改正の効果と課題

宇津橋「第三次・担い手3法」は、担い手である施工者を守る法改正とも言われています。まさに前号で国交省の方がお話しされた通り、日本の建設業界は日本そのもののインフラ産業としても重要な業界ですから、このままですと立ち行かなくなる、若者が就職したくなるような魅力ある産業・業界にしなければという、大きな目的がある法改正ですが、一方で発注者にとってはどちらかというとコストが上がったり、工事期間が長期化したり、ある意味デメリット的な要素があるのかと思います。この法律の趣旨は基本は施工者サイド・請負サイドを守る、建設業界を衰退させない、止めないということなので、どうしても発注者側に負担が掛かるのは否めません。

 最近大型プロジェクトの白紙撤回・見直しの話も日本全国で聞かれます。発注者の事業の持続性を損なうのではないかと危惧されますが、CMrとしての立場で法改正の効果を感じる点と一方で苦労されていること、また改善点があればうかがいたいです。

村田先程も申し上げましたが、発注者側のある程度の意識改善は「第三次・担い手3法」の効果として出てきていると感じます。ただ、こうした法改正やそもそもの法律自体を知らない発注者もまだ多くいますので、CMrとしてはこうした法制度や法改正をできる限り周知するようにしています。

 デメリット的要素としては、宇津橋さんのおっしゃる通り今回の改正自体は短期的には担い手を守る側の方策だと思います。ただ長期的に見ると業界を守ることは発注者のメリットにもなるため、一定程度その理解を得ながら進めていく必要はあると思います。民間事業の大半は収益を上げるために取り組まれますが、現在は工事費高騰の影響で、収入が増える目処がない中で支出が増える状況になっているのが実態です。大型プロジェクトの延期や中断が報じられることも多いですが、そうなるとやはり民間企業の事業活動が停滞することになり、それはそれで国力の低下にもつながります。現在の工事費高騰の問題は、一般的な物価上昇、賃金上昇、賃料上昇等に比べて工事費が極端に上がっている点にあると考えています。2025年12月から労務費に関する基準が示され、著しく低い労務費等での発注が本格的に禁止されると、更なる工事費上昇も懸念されます。公共事業は予算が積み増されたり、再開発プロジェクトなどは補助金が増額されたりしていますが、民間事業においても今後の状況によっては、公的な支援措置などの検討も必要になってくるのではないかと感じています。

宇津橋「第三次・担い手3法」には、施工者側の担い手不足から、ICTつまりAIなどの最新の技術の活用などを謳っていますが、それらを実際に取り組まれている案件などはありますか。大手ゼネコンなどでは進んできているようですが。

村田われわれの行うCM業務の効率化に向けてICTやAI活用などに取り組んでおり、プロジェクトによってはプロジェクト推進や関係者の情報共有にクラウドサービスを活用したりしています。一方で各社内での業務効率化の取り組みは個社の範疇なので、直接的な促しは難しい面もありますが、技術提案書の評価軸において、生産性向上を図るようなICTの活用、ロボットなどの新技術に対する積極的な評価を加えていくことで、効率化の動きを促していくことも必要になってきているかもしれません。

リスク(おそれ)情報の必要性

宇津橋続いて、「第三次・担い手3法」による、担い手確保のための働き方改革・技能者の処遇改善等、まさに建設業の持続可能性を高めていくところでは非常に重要な動きであるという一方で、発注者側にとっては今までの建設コストの増大化、工事期間の長期化につながり、発注者の事業の持続性を損なうのではという議論もあります。それぞれの事業という目線に立ったときに、施工者の立場で法改正の目的や法施行による遡及効果などについてご意見をいただけますでしょうか。

酒井建築の着工面積がどんどん減っていて、リーマンショックの時よりも少ない工事量もこなせない状態まできてしまっています。それは、建設業にとってかなり厳しい状況になってきていると感じます。売上は上がっているのですが。ただ、これは一時的なことかもしれませんが……。

宇津橋「リスク情報」はやはり情報を持っているのが施工者側ということから大手になればなるほど体制も整い、盛りだくさんになりますし、当然発注者が協議に応じなくてはならないものもあれば、必要ないというものも盛り込まれています。それをCMrとして精査をして協議に応じる姿勢が大事だということですね。

村田そうですね。CMrとしても内容はきちんと把握した上で、協議に備える必要があると思います。施工者側からの協議要請の際には、リスク情報に記載された物価上昇なのか、記載のなかった物価上昇なのか、設計上見込めていなかった想定外の設計上の増額なのか、といった要素を分けて出してくれると協議がしやすくなります。

宇津橋CMrから施工者に、ちゃんと増額分を切り分けたものを出すように助言をするということでしょうか。

酒井その通りです。結局増額請求に対する内訳や根拠がないと発注者も納得できないので、協議には応じてもらえたとしても、承諾をもらうのは難しくなってしまいます。

 また「リスク情報」としてあらかじめ出していて、かつ合理性のある増額協議要請だったとしても、発注者側にとってはその予算が確保できるのか、という問題があります。CMrとしては増額要請の妥当性の確認とともに、予算積み増しの可否、VE・CDや与条件変更による減額余地なども考慮し、発注者と相談しながら対応検討を行っています。

宇津橋CMrとしては発注者側の立場ですが、施工者からの情報に加えて、ちゃんと価格が上がりそうな情報を早めに伝えなければならないということですね。

酒井もちろんCMrからもそうしたリスクは可能な範囲で伝えますし、リスクがあると言うだけではなく、対応策をセットで考えていかないと物事は進まないと思います。

12月に施行予定の「労務費の基準」

宇津橋次に改めて、「第三次・担い手3法」施行後の施工者への対応状況の中で価格転嫁や技能者の処遇改善に向けて、国交省ではこの2025年12月施行を目指して「労務費の基準」作成に動いています。一方で日本の建設業界においては総価請負契約が今まで行われてきました。ですから労務費や資材費が一式で計上されて仕分けが明確化されていない課題もあります。こうした中でCMrが施工者に対して見積りの作り方などの助言などの働きかけはどのようにしていけばいいでしょうか。

村田著しく低い労務費での発注の禁止について、どのように実効性を確保するか、という意味では内訳明示(材料費等記載見積書)は非常に重要になってくると思います。これらのルールは12月に施行される予定の「労務費に関する基準」や「労務費に関する基準の運用方針」に示されることになると思いますが、見積時に基準となる労務費(公共工事設計労務単価を基礎として計算された労務費)がきちんと確保されているのかを発注者側が確認する対応が必須となると、材料費と労務費が分けて記載された見積書が必要になります。その場合に受注者側の負担が果たしてどのく らいなのか、それに対して発注者側が妥当性を確認・検証する負担がどれくらいなのか、発注者側や設計者が行う積算はどう対応するのか、など建築プロジェクトに対してさまざまな影響を及ぼす可能性があります。CMrとしてはその中でどのような支援ができるのかをしっかり見極めていく必要があると考えています。また一方で、内訳開示が努力義務であった場合に、実際の運用として受注者側が1次2次の下請けも含めてどこまで対応できるのか、発注者として、あるいはCMrとしてどこまでのレベルの内訳開示を受注者側に要求していく必要があるのかというあたりも、今後注視していく必要があると考えています。

国交省が定める労働者本人が受け取るべき賃金を基に、所定内労働時間8時間として設定された日額換算値労務単価には事業主が負担すべき必要経費(法定福利費、安全管理費等)は含まれていない

宇津橋発注者側にとっては施工者側がきちんとその説明をするにしても、情報はあくまでも施工者側が持っていますので、そこはCMrの出番といいますか、コスト・マネジメントの点でもCMrにより深く関与してほしいということにならないでしょうか。

村田おそらく内容がより詳細に開示されると、それを詳細に見なくてはならない業務も出てくると思いますし、CMrとしての役割は増えると考えられます。

 これまでは、安い見積りや極端に短い工期が出てきた時に、われわれとしては見積り落ちがないかどうか、工期の見立てを誤っていないかどうか等、後々発注者側に起こり得るリスクについて注意喚起を行ってきました。ですが、「働き方改革」や「技能者の処遇改善」の視点でいうと、今後はそれに加えて、ダンピングを助長していないか、公共工事設計労務単価以下の労務費で見積られていないかという視点でも見ていく必要が出てくるのではないかと考えています。

 実際われわれが受け取る工事費見積書は労務費・資材費は分かれていないものが多く、複合単価のものが大半です。労務費・資材費の混ざった単価で入っていて、われわれもその相場観の中でチェックしています。それがこれまでのコスト検証のやり方でした。それをどこまで材工分離にできるのか、躯体工事が可能になったとしても、仕上工事や建具工事など見積項目全てにおいてその対応が可能なのか、施工者によって対応にばらつきが出て横並び比較が難しくならないかなどは、今後の動向を見ながら対応を考えていく必要があるかと思います。

宇津橋日本の建設業はビジネスとして歴史があり、明治以前からの古い会社も多いですし、そもそもそれらは材工一式という信頼関係のもとに成り立ってきました。それを何から何まで全て明確化することはかなり時間もかかるし難しいと感じる一方、きちんと発注者が理解して払うべきものは払い、そうでないものはCMrが入って協議をすることをやっていかなければなりませんが、まだなかなか見えないという感じですね。

村田そうですね。建設業は元請側から順に価格が決まっていきますが、それを下請側から決まっていくようにしないと、100%確実な労務費の確保、ということは難しいように思います。ただ建設業界の一般的な契約方式はランプサム(総価請負契約)ですので、やはり制度上、価格は元請から決まっていきます。そのような中で最初の見積り時点で全ての下請け工事に関して適切な労務費を確保した見積りが本当に作れるのか、最後までその労務費が守られ続けるのか、といった点は非常に難しい問題だと思います。そういった意味では、実際に価格を下から上に決めていくようにするには、オープンブック・コスト+フィー方式の導入など、発注や契約の制度を見直す必要が出てくると思います。

 ただ今回の法改正は、労務費に関して100%の実効性確保までは難しいにせよ、担い手の処遇改善に向けた労務費の確保に関して一定の効果は必ずあると思います。これらをどのように運用して実効性を高めていくのか、という点について、CM協会としても国土交通省の方々と対話をしながら、発注者・施工者への普及・啓蒙を進めていかなければならないと考えています。

宇津橋そもそも日本の建設業界は元請け、下請け、孫請けレベルで終わりません。個人請負のような人も含めて江戸時代から日本の建設業の制度はものすごい重層構造になっていますので、それを下から積み上げていくのは大変難しいことだと感じます。それは日本特有のものですね。

村田下請けの重層化は海外でもあると聞きますが、自社施工比率の下限を定めるなど、直雇用を促すことで、重層化を抑える取り組みなどがなされているようです。日本では歴史的な経緯もあるので、何十年も前から問題視されていますが、なかなか解消されないというのが現状だと思います。そういう意味では下からの積み上げというのは今すぐにというのはなかなか難しいように感じています。

求められるCMrの役割

宇津橋最後の質問です。今回の「第三次・担い手3法」改正、建設コストの高騰、人材不足など、さまざまな外部環境の大きな変化がありますが、発注者・施工者に対して、CM会社の立場で期待すること、日本CM協会ならびにCMrが進むべき方向、あるべき姿についての考えを聞かせていただけますか。

村田CMrは発注者側に立って発注者を支援する立場でありながら、受注者である設計者・施工者の立場も理解しなければならない職能だと考えています。そういう意味では持続可能な建設業としていくために国が施策を打っていく道筋において、CMrは重要な位置づけにあると感じています。国土交通省では、こうした法改正や労務費の基準等を検討する上で発注者側や施工者側の各種業界団体・企業・有識者と共に各種委員会やワーキンググループを設けて議論を進められています。そうした中では発注者・受注者の両方の立場が分かる役割というものが、日本CM協会やCMrに求められる状況になっているのではないでしょうか。プロジェクトベースで言いますと、法改正に応じてそれをどのようにプロジェクト内で活用してなじませていくのか、発注者・受注者の双方にいかに普及・浸透させていくのか、ということがCMrの重要な役割ではないかと思っています。

 担い手確保の施策は、労働者の処遇改善が大前提ですので、どちらかというと工事費が上がる、工期が延びることにつながり、工事費高騰という短期的な建設業界の課題とは逆行する面もありますが、長期的には建設業界を持続させるための重要な施策であると考えています。建築プロジェクトの関係者(発注者・受注者)は基本的には短期的な視点(当該事業での成功)のみを考えがちですが、そのような中で長期的に持続可能な建設業界としていくための国の施策に対しての理解を発注者・受注者の双方に促し、制度やルールの順守を促していくこともCMrの重要な役割であると考えています。

 CMrは建設プロジェクトが難しく複雑化するほど役割が増えるという職能であり、課題の多い建設業界において、CM協会やCMrの役割はますます重要なものになってくると思います。

宇津橋貴重なお話をうかがうことができました。ありがとうございます。

プロジェクトレポート

projectゆめが丘ソラトス新築工事 CM業務

運営シナリオから逆算した地域循環型施設の実現

  • ポイント1 発注段階から運営視点を組み込み、地域循環と子育て支援の施設機能を実現
  • ポイント2 事業者の少数精鋭体制を補完する意思決定運営
熊本 智子
熊本 智子
  • 日建設計コンストラクション・マネジメント株式会社 マネジメント・コンサルティング部門
    ディレクター
    熊本 智子

テーマ1発注者がCMrに求めたことは?

沿線価値向上を実現する
少数精鋭体制でのプロジェクト推進

相鉄いずみ野線「ゆめが丘」駅前に、地域の交流拠点となる大規模な商業施設を開発するプロジェクトです。ESGの視点を取り入れた持続可能な街づくりの実現が重視され、相鉄グループとしては初の郊外型大規模開発として位置づけられました。沿線価値の核となる「食」「アクティビティ」「教育・文化」を軸に、地域の交流を生み出す拠点を、限られた予算とスケジュールの中で確実に実現することが求められました。私たちが参画したのは、基本計画段階にあたる2020年10月、コロナ禍の真っ只中でした。感染対策と事業継続の両立、そして先行き不透明な社会情勢の中で、柔軟かつ迅速な判断が求められる状況でした。発注者である相鉄アーバンクリエイツは少人数体制であったため、企画・設計から施工、テナント調整、開業準備までを横断的に支援できる外部パートナーの存在が不可欠でした。設計・施工一括発注の与件には、発注者の運営方針を明確に反映させることが求められ、開業後の運営を見据えた視点を設計段階から組み込む必要がありました。そのため、CMrには、発注者の意思決定を支える力、発注者の意図を現場へ的確に伝える力、関係者間の合意形成を図る交渉力、そしてプロジェクトの中核方針を揺るがせない判断基準の運用が求められました。私たちは「発注者理念を施設運営へ確実に反映させること」を軸に、各段階での判断と調整を積み重ね、発注者の意図を形にするマネジメントを実践しました。